「中堅会社の品質保証スタッフのオファー」は当然今の部署より、キャリアアップではある。繁忙部署でも有り、流れによってはそこでキャリアを積み、業務による社会貢献をすると言う、路線変更も出来る。いろいろな選択を余儀なくされる時期で有り、由里香はもう、そんな年齢に差し掛かってきた。

それから1カ月半が経った7月末、由里香よりオファーの辞退のメールが、紹介者の友人から転送で届いた。由里香としても、しっかりと時間を掛けて考えた末での結論だろう。これから幾つもの難しい選択が、挑戦する途上の彼女を、待ち受けている筈で有る。

私の小牧での業務がいよいよ佳境に入り、多忙の中連絡が出来ず、その後の由里香の推移が気になりはじめた10月20日に、彼女からメールが届く。11月末付けで現在の会社を退職するとの事。そして、来年度に「医療セラピスト」を目指し、通信大学生としてのスタートを切ると、由里香らしいシンプルな報告が。じっくり考えた末の強い決意が逆に伝わってきた。

『会社は11月一杯です。それから合宿免許の予約とったので、18日間くらい新潟へ行きます。詳細は電話で連絡しますね。』

と。電話は来た試しが無いが、完全に吹っ切れた様だ。勿論、ご両親や親族にもその決意は伝えてある事。心強いのは彼女の叔母が全面支援の態勢で、学費支援の申し出と。教育者でもある叔母は常に、由里香の心強いサポーターである。勿論、彼女の祖母からも熱いエールを送って頂いているとのことだ。

11月25日。横須賀市追浜(おっぱま)、業務の都合で帰省の帰り、由里香自宅前で2分間の連絡会。

「今年はTシャツで無くトレーナーだよ」
急な出張だった為、何時ものポートランドには行けずじまい。
「きんぴらごぼう作ったから、食べて下さい」
渡された小さなタッパー。

何時もの気負いも、てらいも無い由里香がいた。安心と小さなタッパーを土産に家路に着いた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『26歳の1回生』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。