第3章 東京都立広尾病院事件判決

最高裁判決の意味

この最高裁判決の原審は東京高裁判決である。最高裁は東京高裁判決を容認し、上告を棄却した。最高裁判決を理解するためには、東京高裁判決を知らなければならない。両者は一体として考えるべきである。

一方、東京高裁は医師法第21条違反部分で東京地裁判決を破棄、自判している。東京高裁が明確にした争点を考えると、東京地裁判決のどの部分が東京高裁と見解を異にし、破棄に至ったのかが重要である。東京高裁は論点を明瞭に示した。それを踏まえて最高裁は東京高裁判決を支持したのである。

最高裁は、【要旨1】部分で、「医師法第21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり、これと同旨の原判断は正当として是認できる」と述べている。

ここで、「これと同旨の原判断は正当として是認できる」と述べているように、この部分は東京高裁判決と同じということである。医師法第21条について、東京高裁は判決文で、「医師が死体を検案して異状があると認めたと認定できるかが問題である」と問題点を明確にした上で、事実認定に先立ち、争点となった『検案』の意義について見解を示している。

東京高裁は、「医師法第21条にいう死体の『検案』とは、医師が、死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」と定義しており、最高裁判決の【要旨1】部分と同一内容である。