この患者さんについても同様に準備をして手術に挑んでいるのだが、そろそろ執刀のチャンスがあるのではと思っていたので特にこの日は入念に準備をしてきていた。僕は嬉しくなってマスクの中で思わずにやける。

「頑張ります」

嬉しいと思ったのも束の間、全身に緊張が走る。僕はこれから上級医たちに品定めをされるのだ。そう思うと、心臓が縮こまり、息がしづらくなる。

今から行われる「腹腔鏡下胆嚢摘出術」は、胆嚢炎や胆嚢結石症に対して行われる手術である。昔は、開腹手術が主流だったが、今は腹腔鏡という内視鏡カメラでお腹の中をモニターに映して、専用の鉗子(かんし)や電気メスなどを使って手術を行う腹腔鏡下手術が一般的である。

そろそろ初執刀のチャンスがくるのではないかと思っていたのは、一週間前に同期の東(あずま)さんが初執刀を経験していたからだ。その術式も腹腔鏡下胆嚢摘出術だった。

胆嚢炎や胆石症は比較的頻度の高い疾患で症例も多く、手術もたくさん行われている。難易度はピンからキリまであるが、簡単なものであれば手順も少なく、1時間程度で終わるため、僕たちのような若手外科医が最初に経験することが多い手術の1つだ。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『孤独な子ドクター』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。