先生はご自身で、稲作農家の真似ごとのようなことをやっておいででした。私も三回ほど、岩手県にある先生の田んぼに足を運びました。もちろん、無農薬の田んぼですから虫がいます。

当時はアルバイトのご婦人方と一緒に虫潰しをしたり、刈り取り後の田んぼで虫の研究をしたり、土の研究もしました。市川所長の田んぼは、備長炭を敷き詰めて害虫対策をしていましたから、備長炭の研究もしました。

所長はおもしろい実験をしてみせてくれました。まず、所長の無農薬の田んぼにいた害虫をつかまえてかごに入れ、農薬をまいた田んぼにつけます。すると、弱って動けなくなり、すぐに死んでしまいます。

それまできれいなところに住んでいた虫が農薬にさらされると、死ぬのはあたりまえです。そのための農薬なのですから。

ところが、農薬漬けの田んぼで育った害虫を無農薬の田んぼに入れても、すぐに死んでしまうのです。農薬には耐性があるのに、きれいな水の中では生きられない。これは不思議でした。ますます元気になって動き回ってもよさそうなのに――。

所長は、絵を描きながら熱心にその理由を説明してくれましたが、私にはちんぷんかんぷんでした。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『喰い改めよ! あなたはあなたが食べたものでできている』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。