自分が集団の中のどこにいたのかわからないが、とにかく薄暗い部屋の中へ他の学生たちの流れに押されるままに、ドアが近付いてくる。先頭の誰かが果敢にドアを押し開けた。

流れに導かれるまま、抗う術も無く入ってみると、経験した事のない薬品の匂いと、薄明るさとともに、目の前に並んだ幾つもの机と、その上に横たわる白い大きくふくらんだ布が、目に飛び込んできた。

部屋全体に薄い霧がかかっているような気がしたが、それは錯覚に違いなかった。それらの布は、明らかに何か大きな物体の上にかぶせられていて、当然そこには、死体、献体、いや御遺体があるはずだと思うと、自然に誰もが入り口で立ち止まったまま、先へ進もうとはしなかった。

教授はやや遅れて別の入り口から入ってきた。高本教授だった。骨学と兼任していたことを僕は初めて知った。教授は、せわしなく時計を見て、挨拶もそこそこに、割り当てられた持ち場につくように告げた。我々はそれを境に、意を決したように少しずつ、自分たちの担当のテーブルを探して移動を開始した。

一歩一歩踏みしめて歩いているつもりなのに、気もそぞろなのが自分でもわかった。自分の班のテーブルに辿り着くまでに、他の班のテーブルを幾つもすり抜けなければならなかったが、その上の白い盛り上がった布を横目でにらみながら、次第に緊張感が高まるのを感じる内に、白い札に9班と書かれたテーブルにたどり着いた。

小・中学校の、そばにシンクを備えた理科室の実験台のような、表面が黒一色のつやの消えたテーブルの上の、真っ白な布に包まれた謎の物体。

その前に対峙して立ち尽くすうち、ふと自分が人間であるというより、自分もまた物体であるという事が意識され、一種の同一化されるような奇妙な連帯感が生じた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。