アリとキリギリス

小学校の卒業まで、半年となったある日の帰り道、禅と賢一は進路について話をしていた。

「賢一、中学はどうするんだ?」
「どうするって?」

その質問をして、禅は愚問だと思った。なぜなら、経済的に苦しい賢一が、私立中学に行く訳がないと思ったからだ。賢一はそれを察したように聞き返した。

「お前は私立中学へ進学するんだろ?」
「ああ……いや、まだ決めてないよ」

それは、賢一に対する気遣いから出た言葉だった。なぜなら、本当は親から私立中学に行くように言われ、願書も出していたからだ。もちろん賢一にも、それは薄々わかっていた。しかし、禅の気遣いは伝わっていた。禅は横にある空き地を見ると話題を変えた。

「ここでよく遊んだよな」
「ああ」
「野球をやったり、サッカーをしたり……」
「フフフフ……」
賢一は、笑った。話題を変えた禅の必死さが伝わったからだ。

「な、何だよ」
「いや、別に……そうだな、よく遊んだよな……」
そう笑いながら言った賢一を見て、禅も笑った。

「小さい頃はかくれんぼをしたよな」
「ああ」
「あ、覚えているか?」
「何を?」
「ここをスタートにして、五対五になってチームで鬼ごっこをしただろ?」
「ああ、あの時か」

それは、禅と賢一のチームが相手チームを捜していた時の事だった。逃げる範囲は限られているのに、中々見つからなかった。夏ではあったが、辺りは暗くなってきた。仲間の一人が言った。

「もうやめて帰ろう」