知(し)らすと領(うしは)く

古事記には、国譲りの際の「シラス」と「ウシハク」について述べられており、「ウシハク」ではなく「シラス」により国づくりを行うことを明確にしています。これこそが今に続く、皇室精神の源流になっているのです。

「ウシ」とは「主人」のこと、「ハク」とは太刀を腰に佩(は)く、着けるという意味です。つまり、「ウシハク」とは権力武力によって国の領土を奪い、国を治める事であり、その力は出雲を治める大国主命に集中し争いが絶えない状態にあったのです。

簡単に言えば、「汝ウシハク国」とは大国主命が武力によって支配し、私有した国の事なのです。しかし、天照大御神は「ウシハク」ではなく「シラス」の国にすべきと仰せになられました。力による統治ではなく慈愛に満ちた心で、日本の国を治めるというもので、民衆を大御宝とし、民衆のための国づくりを示したのでした。

神産巣日神の子の少名畏古那神が、自分たちが成した国づくりについては、よい所も沢山あるが、よくない所もまだ残っている、といい残し、常世の国に旅立ったとされています。実はよくない所とは、この「ウシハク」の統治の事をいっているのです。

これにより、天照大御神は争いが絶えなかった「ウシハク」の国を、慈愛に満ちた「シラス」の国へと変えたのです。大国主命はその「シラス」の国を実現する為に国を譲りました。以来、日本の国は神武天皇の東征神話にしても、日本武尊(やまとたけるのみこと)の西征にしても、「ウシハク」から「シラス」の精神を基として、国譲りを完成させてきたのでした。

もっとも、「ウシハク」と「シラス」は現代社会でもうかがい見ることができます。現代に生きる私達は「ウシハク」という力の世界に翻弄されながらも、日本精神を見失う事なく、今も「シラス」の心を大切にして生きているのです。

初代の神武天皇が即位された後、万世一系のまま、天皇の系統が一度も途絶えることなく、今日まで続いていることは、世界の奇跡といわれています。このような国は世界のどこにもありません。その奇跡を生みだした原点は、ここに述べた、「三種の神器」と「三大神勅」、そして「シラス」の精神なのです。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『いま、日本の危機に問う』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。