「ここのマンションなの」

よくよく後ろを振り返って見ると、薄青色の四階建てのマンションがあった。

大きなアーチ型の入口の横には、確かに大きく野中マンションと書いてある。

「バス停の目の前なんだ、すごいね」
「便利だけど車の音がうるさいの。雨の日には濡れないけどね」

そう言いながら、ふふ、と笑った。ひまりが笑うのを初めて見たアッキーだった。

「私は車の音には慣れているけど、初めて家に来る人はすごい音ねってびっくりするの」

そう言いながらまた笑うのだった。

「玄関の前まで見届けるから、何階?」
「ここ一階なの。今日はどうもありがとう」

すぐそこに玄関のドアがあった。アッキーは超びっくりして大目玉でひまりを見た。

「またね」

アッキーはそう言って歩き出してからすぐに振り返った。そこにはもう、すでにひまりの姿は無かった。今、もしここに流れ星が見えたら時間を戻してくださいと祈ろうかなと、まだまだ少年のアッキーがそこにいた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。