デイナイトケアの取り組み①

それでは、デイナイトケアでは依存症とどう向き合い、取り組んでいるのか、榎本クリニックの例をご紹介しましょう。依存の種類や個人の症状により違いはありますが、ここでは大枠をご理解いただければと思います。

前提として、薬物依存やアルコール依存など物質を摂取するタイプだと、内臓(胃、腸、肝臓、腎臓など)に障害が出ている場合がありますので、そのときには内科の治療を優先します。

体調があるていど回復してから精神科の治療が始まりますが、本人が「依存症だから専門医に診てもらわなければ」と自分からやってくることはまずありません。逆に体調が回復したことで「病気は治った」と勝手に判断し、また薬物や酒をやってしまうケースがひじょうに多いのです。

そこで、家族や近しい人たちが説得するなどして、クリニックにつれて来てくれるか、あるいは家族だけでも相談にこられるかが、回復できるか否かを大きく左右します。ところが、最近は家族とは疎遠で友人知人もなく、社会から孤立した単身者が増えているのが、問題を深刻にしている一因になっています。

依存症のタイプによって、適切な薬が処方されます。アルコール依存症なら「抗酒薬」というお酒を受けつけなくなる薬(飲むと頭痛や吐き気をもよおす)を、性依存なら瞬間的な興奮を抑える精神安定剤を服用します。ですが、これらは決して「酒を飲みたくなくなる」「異性に関心がなくなる」薬ではありません。依存するこころは継続しており、服用をやめたとたんに同じことを繰り返してしまうのです。

大切なのは薬で症状を抑えながら、薬にたよらずとも依存を断ちきれるような頭と体(そして環境)に変えていくことです。長い時間と努力の積み重ね、そして周囲の支えが必要になります。
 

その第一歩は、デイナイトケアに通って「規則正しい生活」をすることです。依存症になる人は、劣悪な家庭環境に育ったとか、ストレスから不眠になり睡眠時間がバラバラであるとか、食事が不規則でろくに栄養がとれていないなど、とにかく荒んだ生活になっています。まずは、それを修正していきます。

デイナイトケアに参加すると毎朝定時に外出することになりますし、昼と夕には栄養バランスのとれた食事も出ます。せっかくクリニックにきてもイスに座ったまま「ぼーっ」としている人もいるのですが、まずはそれでもいいのです。

医師や看護師や精神保健福祉士がかわるがわるやってきては声をかけ、ちょっとした会話をかわす。そうしたあたりまえの社会性を取り戻すところから、スタートする人もいます。

午前中は、おもに自分の依存について学びます。なぜお酒や薬物がいけないのか、なぜ自分は依存してしまったか、それによって自分の人生や周囲がどうなってしまったのかを、自分自身で考えるのです。

最初はどの患者さんも「医師や家族にいわれたから」といった理由でしぶしぶ通ってきています。ですが、本人が心から「ここで回復したい」という意志をもって取り組まなければ、挫折してしまうのは目に見えています。

また、しばらく通うと「きっぱり断ちきれた」と立派なことをいうのですが、こころの底ではまだ揺れ動いているので額面どおりには受け取れません。そもそも依存症という病気は、そう簡単に回復できるものではないのです。本人のやる気を大切にしながらも、冷静に見守っていかなくてはなりません。

さらに進むと、本心から「依存症とたたかわなければ」と思えるレベルに達します。だんだんと意志の力で自制できるようにもなってくるのですが、本人も気づかないところでたね火はくすぶり続けています。そして、ストレスがたまったりショッキングな出来事があると、ついまた手を出して炎が燃え上がってしまいます。

そこを超えて、なおもやめ続けることができると、ようやく葛藤を整理してしっかりとした心構えがもてるようになります。自分からほかの依存者にプログラムに参加する大切さを説いたり、困難をのりこえたりしたことで人間的に成長して社会に復帰できる人もいます。ここまでくるのに、はやくても数年はかかります。

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。