弐─嘉靖十三年、張(チャン)皇后廃され、翌十四年、曹洛瑩(ツァオルオイン)後宮に入るの事(6​)

それからまる三日、身動きがとれなかった。からだに受けた創(きず)はしだいに癒えて来たが、心の傷は、日ごとふかく食い入るように、軋(きし)んだ。心というやつは、衝撃に弱く、ここをやられると、人は、容易には立ち直れなくなってしまうのであった。

石媽(シーマー)が、私が何日も姿をみせないのに気づいて、声をかけて来た。

「叙達(シュター)、いるんでしょ? いったい、どうしたの」

私は返事をしなかった。毛布にくるまったまま、息をひそめていた。

「いま、ほかに誰もいないから。開けるわよ! いいわね」

石媽(シーマー)は、扉をあけ、牀几(ベッド)に横たわった私を見るなり、小さな叫び声をあげた。

「……いったい、どうしたの。何があったの?」
「いててて」

起き上がろうとしたが、腕やら肩やら腰やらに鈍痛が走り、そのたびに顔面がゆがんだ。

「あざだらけじゃないの。まあ、顔も、こんなに腫れて……ちょっと待ってなさい、いま、手当てしてあげるからね」

石媽(シーマー)は、肌ぬいだ背中に、膏薬を塗ってくれた。

「お茶をもって来たわ。これ飲みなさい。それから、何か食べられる? あんた、顔色がわるいわよ。怪我して、ずっと何も食べてないんでしょ?」

冷えた大餅(タービン)にかぶりついた。喉につかえそうになったのは、水で流し込んだ。

「話してちょうだい。いったい、何があったの?」

私は、だまっていた。話したいことは、山ほどある。だがそのときの私には、世界のすべてが、敵に見えていた。かたくなだった。心をゆるせば、裏切られて痛い目にあう――と。