澄世は自分の事と重ね合わせて、恵子の心情をおもんばかった。

「……鬱でね。私もD先生にかかってた。……もう自殺しようって思ってね……」
「……」
「死に場所も決めてたの。それが、癌で死ぬの! 可笑しいでしょ?」

自嘲するように言い、空を見上げた恵子の瞳から涙がこぼれた。澄世は、この人を、こんな孤独のまま死なせてはいけない! と思った。

澄世は、地下の売店で折紙を買い、鶴を折り始めた。毎日毎日、鶴を折った。

千羽になり、糸に通し、出来上がった千羽鶴を、恵子のベッドの天井に吊した。恵子は澄世に抱きついて喜んでくれた。

だが、実のところ、救われたのは澄世の方だった。鶴を折っている間、澄世は自分の心の闇と対峙せずに済んだのだ。恵子が言った。

「貴女も癌よ! ちゃんと調べなさい!」

三ヶ月たって、澄世は退院した。声は何とかかすれ声が出るようになっていた。

D先生の指示で、整形外科にかかったところ、頸椎症と腰椎すべり症が判明した。また、皮膚科にも回してもらい、抗生物質を出され飲んだところ、頭皮から鼻にかけての吹き出物が治った。同じく皮膚科で、ビタミン剤ももらって飲みだして、口内炎も治まってきた。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『薔薇のノクターン』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。