第二章 ゼロからのスタート

ピンチに秘められたチャンス

ずいぶん前になりますが、『真実の瞬間』(ヤン・カールソン著、堤猶二訳、ダイヤモンド社、一九九〇)という本を読みました。スカンジナビア航空を立て直したヤン・カールソンの物語です。窓口のスタッフが顧客と接する最初の瞬間の十五秒が会社の成長を決定づける、ということを教えてくれています。

TOTOの仕事も少しずつ増えていきましたが、実はうちの鉄工所には電気溶接機がありませんでした。父の時代はガス溶接です。昭和三十年代まではカーバイド(昔、夜店などの照明に使っていた炭化カルシウム)でガスを発生させていましたが、その後、火力の強いアセチレンガスに代わっていきました。

父はどんなものでもガス溶接でやっていました。船のエンジンのヘッドカバーにひびが入っても、父のガス溶接で直りました。まさにエンジンのお医者さんです。

その技術は素晴らしいのですが、時代は電気溶接(抵抗機)に移行していました。注文品は電気溶接で行わなければできません。しかし、うちには電気溶接機を買うお金はないので、私は知り合いの鉄工所を訪ねました。

「すみませんが、電気溶接機を一台貸してください」と社長にお願いしました。その鉄工所には電気溶接機が十台ほどずらりと並んでいました。社長は「おう、その端にあるやつを持っていけ」と言ってくれ、一番小さな溶接機を借りることができました。