もしそれがほんとうなら、現在の本尊の釈迦三尊像は、いつからこの金堂の本尊になったのだろうか。ここまで小声で二人に説明すると、坂上は釈迦三尊像を指さし、小さな声で、

「あのお釈迦さまの背中に大きな作り物がおますやろ。あれは後光を表現したもので、光背(こうはい)というんやが、あの先端が曲がっておりますやろ。それをよう見といてもろうて、ここをいったん出ましょか。あまり大きな声で話すと他の人に迷惑やから―」

そうささやくと、金堂を足早に出た。なごり惜しそうに金堂をながめながらまゆみが出てくると、坂上は見学者のあまりいない中庭の隅のほうへ二人を誘導した。

「話が少し込み入ってるんで、あそこでは話せませんでしたんでな」と坂上がいうと、「法隆寺の火災と再建のことですね」と沙也香が確認した。彼女は昨夜、インターネットで少し知識を仕入れているが、予備知識のないまゆみは、二人がなんの話をしているのかわからず、ぽかんとしている。

「法隆寺のサイケンってなんですか。法隆寺は、倒産しかけたことがあるんですか」

沙也香は思わず大きな声で笑ってしまったが、少し離れたところにいた観光客らしい人が、なにごとかという顔でこちらを見たので、あわてて口を押さえた。

「それは債権でしょ。そうじゃなくって、再建築―建て替えのことよ」
「建て替え? えっ、法隆寺って、建て替えられたんですか。だったら、世界最古の建築物っていうのはウソなんですか」

すると坂上が小さくうなずきながら答えた。

「再建されたのはまず間違いないといわれていますが、それでも世界最古の木造建築物であることには変わりありません。これを見てください」

というと、沙也香に先ほど渡した資料の二ページ目を指さした。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。