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宗像は意を決して訊ねてみた。

「私と宗像さんが? いいえ、そのようなことはないと思います。私には全く覚えがございませんわ。でも、なぜですか?」

「そうですよね。いえ、なんとなくという程度なのかもしれませんが。やはり私の思い違いのようです」

その場では、会ったことはないという結論になったが、宗像はそのときのエリザベスの顔に、再びわずかな影が、いや、不安と言ったほうが正しいだろうか? そんな兆しが一瞬表れたのを見逃さなかった。

相変わらず海岸では、街路照明に照らされて無数の海の花が乱舞して空中を浮遊していた。それは、あたかも寒々しい冬の夜に吹雪く大粒の牡丹雪が、外灯に照らされて空から降り注いでいるようにも見えていた。

「お席の用意が整いましたが、お移りになりますか?」

給仕が来たのをきっかけに二人は席を立った。窓側に面した四人がけのテーブルの奥の席が二人のために用意されていた。青いナプキンのかかったテーブルの上で、窓側に寄せられた小さな照明スタンドが仄かな光を放っていた。エリザベスが奥に、宗像は入り口を背にして向き合って座った。

屋根を支える木造の壁柱が二卓毎にガラス窓を切り取ってショー・ウィンドウのようになっていたことも、白いレースとベージュ色のドレープ・カーテンがダブルになって引き分けられ、壁柱のところで可愛らしく束ねられていたことも、エリザベスにとっては好ましい印象に感じられた。

「親密なスケールですし、可愛らしいインテリアだわ」

間もなく支配人のリーニョス氏が再び姿を現し、タキシード姿の上半身を何度も大袈裟に揺すりながら慇懃に言った。

「改めてもう一杯シェリー酒をお持ちいたしましょうか? それとも何かほかのお飲物でも?」
「エリザベスさん、何かアイデアは?」

「そうですね。それではダンにしましょうか。これはエルクード種を主体に造られた辛口ワインで、なかなかモダンな味わいですのよ。1996年はあるかしら?」

「さすがにお詳しいですね。お任せします。ところで、今日のメインはいかがされますか?」
宗像はエリザベスに誘いをかけるように尋ねた。

「私はもう決めてありますの。調理法は後でご相談するとして、メインは白鱈にいたします。アントレはツナと米と季節野菜のマリネ。それに、もしそれが今日あればのことですけれど、オマールのサフラン・スープ白トリュフ入りを。フッフッフッ……実は昨晩、アトランティックのシェフにこちらのお勧めを尋ねましたの。宗像さん、あなたはどうされますか?」

得意満面の笑顔を振りまきながら、エリザベスが種明かしをすると、そばに立って聞いていた支配人は、ニコニコしながら大きく頷いてメニューを二人に渡した。