「バスがないものだから、こんな年で車を運転して行って来ましたが大変でした。近くに病院があることの大切さを改めて感じました」。その日受診された83歳のFさんがこんなことを言われました。

自家用車ですぐに動ける青壮年なら少々遠方であっても、充実した医療機関の方がいいと思うかもしれません。でも地域のご高齢の方は毎日の食材の確保ですら「スーパーの車が家まで来てくれるから助かる」「お買い物バスを利用して週に1回買い物に行っています」「移動販売車で買っています」の状態です。医療機関が遠くなるほど受診ができなくなります。

それに多くの病気を抱えているご高齢の方はいくつかの診療科を受診されます。小さくても様々な食材を積んできてくれる移動販売車のような医療機関が必要なのです。

さらに急性期には早くきちんと対応してくれる医療機関が必要であることは言うまでもありません。ご高齢の方は青壮年に比べ急変が生じやすい。身体の抵抗力も弱く少しでも早い段階から治療をすることが大切なのです。

しかも地域では高齢者が増加、独居、高齢世帯も増えているのです。本当に地域のことを考えるなら地域の方々が安心して暮らせる地域づくり、地域の医療体制の構築が必要だと思います。

坂下病院の急性期病棟が本年中に閉鎖されることになりました。地域のご高齢の方々の願い、嘆きが市の上層部には届かなかったようです。

社会生活の中で「効率」だけでは解決できない大切なものが沢山あるように思います。それを忘れた時地域は発展することなく廃れていくでしょう。

住民の方々が「住んで良かった」「こんな地域に住みたい」と思える地域になって欲しいものです。坂下病院がなかったら、夜間の受け入れがなかったら、Iさんの笑顔はなかったかもしれません。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。