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しかし美しい光景に言葉は不要だった。黄金色の海を臨みながら、そのまま時間が過ぎ去っていった。右折したためか、車が大きく孕んで揺れたとき、宗像は右手で身体を支えながら言った。

「私に合わせて今晩は東洋的な装いにして頂いたようですね。それで時間がかかってしまったのでしょう?」

「お待たせして本当にすみません。でも、よくお気づきになりますわね。今回、パーティーで着るために二種類のドレスを用意して参りましたの。どちらにするかは、当日の朝の気分で決めればいいと思いまして。でも宗像さんとのご縁で、このようなひと時を過ごすことになりましたから、ええ、ご想像通りの選択をいたしました。そのおかげで明日はどちらにしようかと悩むこともなくなりましたわ。ファッションにもご興味が?」

「男であればという程度です。でも仕事では毎年たくさんのモデルさんを撮影してきましたので、多少の知識という程度は。ちなみにもう一つのドレスはどのような?」

「写真家でしたものね。失礼致しました。もう一つの方も好きな色で、ターコイズ・ブルーのドレスで、とても気に入っておりますのよ。今日のこれは日本のSOTATSU。普段オフィスでは殆どが黒かグレーが中心で、パンツ・スーツが断然多いかしら。反対にウィーク・エンドや特別の日は、彩度の高い色とか柄モノを着ることもございます。特に好きな色がこの二つですので、いつもギリギリまで迷いますの」

「黄色はいかにも難しそうですが、ターコイズ・ブルーも、実際着こなすとなると、コーディネーションがなかなか大変と言われてますね?」

荒々しい凝灰岩の岩場に、幾度となく波が衝突しては、真っ白い飛沫と泡に変わって消えていった。レストラン・ボア・ノヴァはそのような絶景として知られる岩場に取り囲まれて建てられていた。名残りが尽きなかったが、ここでアンホドロのメルセデスとお別れとなった。

車を降りて緩やかな段段を上っていく途中、日没寸前の赤い夕日を見るために、二人は後ろを振り返った。しばらくたたずんでいると、突然、本当に突然というほど素早く、太陽はズルズル、ズルッと、まるでそのような音を立てているかのごとく海に消えていった。

「凄く劇的だったわ!」
「本当に。こういう場所に住めば毎日こんな光景に出会えそうですね」