入院でも外来でもない医療施設が必要だ

こころの病というのは、基本的に症状が出ていないとき(あるいは薬で抑えているとき)には、ふつうの人と同じように生活ができます。錯乱状態であったり自傷他害のおそれがあったりするなど「緊急」の場合以外、入院は絶対に必要というわけではありません。

いずれ社会復帰することを考えれば精神病院に長居はしないほうがいいのですが、面倒をみてくれる人がいないと状態はなかなか安定しないものです。というのも、病気から回復するには規則正しい生活をして、十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事をとり、こころを安定した状態にたもつ必要があります。そのうえで薬をきちんと飲み、自分の病気について理解し、人とも適度に接して社会性を取り戻していかなければなりません。

ところが、多くの患者さんは病になるまで(あるいはなってから)すさんだ生活をしていることが多く、「今日から規則正しい生活をしなさい」と言ってもできるものではありません。入院していればいちおうはそれができるのですが、退院するととたんに元の生活パターンに戻ってしまいます。

最近は、社会のありようが変化してひとり暮らしの患者さんが増えていますが、こころの病をかかえているとどうしても部屋に閉じ籠もりがちになります。一日じゅう布団のなかにいて昼夜が逆転してしまったり、テレビやネットばかり見ていて、リアルに人と話したりすることがありません。

食事はインスタント食品やコンビニ弁当ばかりで栄養がかたより、掃除やごみ出しをせずに部屋中にごみが散乱します。私がこれまでに訪問したひとり暮らしの患者さんの部屋は、ほとんどが「ごみ屋敷」と化していました。

では、家族がいれば規則正しい生活や食事の面がきちんとケアできるかといえば、これもなかなかむずかしいようです。というのも、家族にしてもこころの病をかかえた身内に、どう接していいかわからない。本人が「具合がわるい」と言って起きてこず、寝室のドアを閉ざしてしまえばひきこもりと同じです。

それどころか、求められるままにお金やモノ(依存症の対象となるもの)をあたえてしまい、症状をますます悪化させてしまうケースも少なくないのです。こばめば大声で叫んだり暴力を振るったりすることもあって、精神科医や看護師のように一貫した態度で接することができません。

患者さん本人にとっても、精神病院にいるあいだは社会復帰がはるか遠くに感じられます。「自分はいつ戻れるのだろうか」と絶望的な気持ちになったり、社会復帰そのものをあきらめたりしてしまう人もいます。かといって、退院してもすぐにもといた職場やポストに戻れるわけではありません(最初から仕事をしていなかったり退職したりしている人も多い)。

職場もどう対処していいかわからず腫れものに触るような対応をせざるをえず、それがますます本人のストレスになります。結果「もうしばらく自宅療養しては」となるのですが、自宅にいてもやることがないのです。

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。