外来のクリニックでは時間が足りない

現在、日本には精神科の医療施設に3つのタイプがあります。

① 精神病院(入院)
② メンタルクリニック(外来)
③ デイケア/ナイトケア(通い)

それぞれの医療施設は併設されているところもありますが、とくに依存症や認知症のケアはデイナイトケアでなければならない理由があります。

精神病院は入院施設ですから、医師や看護師の監視のもとで依存を断つことができます。しかし、依存が根本的に跡形もなく消えることは、まずないといっていいでしょう。

たとえば、女性のハイヒールに異常な興奮をおぼえる性依存の男性がいました。最初は更衣室などから盗んでいたのですが、だんだんとエスカレートしていって最後には背後から女性を襲ってハイヒールを奪い取り、現行犯で取り押さえられたのでした。

入院すれば、いちおう症状はおさまります。脳から分泌される興奮物質は、精神安定剤を服用することで抑制できますし、さまざまなプログラムを通じて依存から遠ざかる訓練をします。が、最大の要因は、病院内では誰もハイヒールを履いていないことです。

ずっと入院しているならそれでいいのですが、そういうわけにもいきません。ひと通りのプログラムを終えて症状が落ち着いたら、退院することになります。そうすると、周囲にはハイヒールを履いた女性がたくさんいます。

精神安定剤を継続して服用し、訓練の効果が発揮されているうちは我慢できるのですが、勝手に薬を飲むのをやめてしまったり、仕事や生活で日々のストレスがたまったりすると、彼はまたハイヒールに手を出してしまいます。そうすると、また1からやり直しです。彼は7回も入退院を繰り返していますが、ハイヒールに対する執念やファンタジーは消えません。

では、外来のメンタルクリニックではどうでしょう? 依存を断ち切るまでのプロセスは同じですが、定期的に受診しますので、社会生活を送りながらチェックが受けられます。ところが、現実問題として、メンタルクリニックではそこまで丁寧に面倒をみられない事情があります。

ややナマナマしい話になるのですが、外来診療の保険点数は1人あたりせいぜい数千点ですから、1日に少なくとも30人以上の患者さんを診なければクリニック経営として採算が取れません。これが駅近のきれいなビルの一室を借りてやるとなると、採算ラインは50人以上に上がってしまいます。

では、診察時間を午前9時から午後6時まで(昼休み1時間)の8時間とすると、患者さん1人の診療にどれだけの時間がとれるでしょう。1日に30人を診ようとすると1人あたりにかけられる時間は15分、50人を診ようとすると9分強です。

あるメンタルクリニックでは、精神科医が診るまえに看護師さんやケースワーカーさんが患者さんに質問をしてあらかじめ問診票に書き込んでおき、実際の診療では精神科医が「ふむふむ、とりあえず大丈夫そうですね。じゃあ、1カ月ぶんのお薬を出しておきますから、また来月になったらきてください」

で、終わらせてしまうことが多いのです。患者さんのこころと向き合うのに、これでは時間がなさすぎます。
 

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。