第一章 新兵

入営

汽車は午前十時に名古屋駅に着いた。静岡の駅とは比較にならない東海地方随一の名古屋駅の大ホールを通って、出口の前の食堂に入り、杉井と謙造はコーヒーを飲んだ。

駅前から市電に乗ると、程なく名古屋城前に着いた。市電を降りてすぐ目の前が、杉井が所属することとなっている野砲兵第三連隊だった。向かいには輜重(しちょう)兵第三連隊、筋向かいには護国神社があり、西北には名古屋城の天守閣がその威容を誇示するかのようにそびえていた。

杉井は、連隊といえば、静岡歩兵第三十四連隊しか知らなかったが、何でも静岡より大きい名古屋にあって、名古屋の連隊は妙に狭く感じられた。連隊の周囲は低い塀で囲まれていたが、これも堀で囲まれた静岡の連隊とは大分趣を異にしていた。

正門を入ると、左に衛兵所があり、衛兵六人が整然と並んでいた。その裏が面会所となっており、その隣が炊事場と浴場、更に第一中隊の兵舎があり、その隅に裏門があった。酒保と将校集会所はその裏門の横にあった。

正門の正面左が第二中隊の兵舎、その隣が砲廠(ほうしょう)、砲廠の裏が五棟の厩舎、厩舎の右隣北向きに第三中隊と第四中隊の兵舎があった。杉井の配属はこの第四中隊の第五班だった。

中隊兵舎前に第五班四十名の初年兵が集合すると、第五班の班長である神尾軍曹が兵舎から出てきて、二列になって自分に従うよう指示した。

内務班は中央に廊下があり、両側に寝室が並んでいた。第五班は左側一番奥の寝室だった。中に入ると、部屋の真中に黒光りのする頑丈そうな木製テーブルがあり、その両側に十個ずつの寝台が向き合う形で置かれていた。

誘導してきた兵たちは、一人一人の名前を確認し、これがお前の場所であるとそれぞれの寝台を指定して、各自その前に立つように命じた。

それぞれの寝台の上には、毛布二枚、敷布一枚、一装と呼ばれる外出用軍服一着、三装と呼ばれる普段用軍服一着、襦袢二枚、股下二枚、編上靴一足、長靴一足、営内靴一足、白い作業衣一枚、帽子一個、巻脚絆一枚、銃剣一個、拍車一対、それに食器等を入れる高さ四十センチくらいの手箱が整然と並んでいた。

寝台の端には、四人の古参兵が陣取って初年兵を監督していた。杉井の隣が藤村上等兵、反対の端に西田一等兵、向かい側の両端には、大宮上等兵と野崎上等兵が立ち、厳しい目つきで新参者を見回した。この四人が第五班の担当であり、このうち野崎が班の先任上等兵であった。

四十人が直立不動の姿勢で立っていると、まず野崎が初年兵に対する初めての命令を下した。

「全員、三装を着用し、編上靴をはいて営庭に集合せよ。その際、今まで着てきたものはすべて風呂敷に入れて持って出よ」

もともと厳(いか)つい顔をした野崎が大声で発した命令に、モタモタしていたら何をされるか分からないと、全員急いで着替えを始めた。