下から胸を蹴りあげられ、私はもんどり打って、あお向けに倒れた。

「おだやかに話してりゃあ、いい気になりやがって! オレたちを甘く見るんじゃねえぞ」

官吏たちは、木櫃(きばこ)に手をのばした。

「や、やめてくれ! 頼む」

その中には、唯一の希望が入っている。しかし、弱々しい叫びも、ただ、むなしかった。連中は、抽斗(ひきだし)をこじあけ、わがもの顔に、銀の塊をとり出した。

「ホーオ、けっこうもってるじゃねえか」
官吏の掌(てのひら)の上で、私の人生のすべてが、ころがされていた。

「オマエは自分の意思で、銀をさし出したんだ。助かりたいがためにな。そうだろう?」

「………」

熱した鉄塊を、喉のおくへとねじ込まれたようだ。私がなにも言えず、呆然のていでいると、三人は、勝手な話を捏造(ねつぞう)して、追い打ちをかけた。

「そうなんだよ。命乞いの銀だったってわけだ。ハッハハ」
「銀に免じて、命だけは、助けてやる。運がよかったと思えよ」
「言っとくがな、訴えようったって、無駄だぞ。ときどき、そういうことをやる馬鹿がいるけれども、そんな奴は、言い分もきいてもらえぬまま、監獄送りだ」

罵るだけ罵ると、去りぎわに、太い眉の男が、私の宝箱を、ふたたび取り上げ、しげしげとながめた。

「ブサイクな箱だな。テメエの身体にそっくりじゃねえか」

吐き捨てるや否や、地べたにたたきつけ、勢いよく踏みつぶした。木櫃は、文字どおり、木っ端みじんになって、四散した。

「ウン? 何だ、こりゃ」
折れた板と板の間から、しまい込んでいたものが、のぞいた。父母きょうだいの形見と、一通の書状。
拾いあげた。

「へっへ……これは、オレが、もらっといてやる」
乱杭歯をむきだしにした顔を、ぬっ、と突き出して来た。そして、左手には、曹洛瑩(ツァオルオイン)の手紙。
「へっ、こんなもん。一文にもならねえな」

私の頰をぺた、ぺた敲(たた)くと、封書ごと引き裂き、紙吹雪と化した手紙を、あびせかけた。
私はあいた口をふさぐことも、否(いな)、まばたきすることさえできず、茫然自失のていで、凍りついた。

獲物を食い散らした虎のように、彼らが去っていったあと、私は、ひらいた扉からしのび込んで来る寒さを感じながら、しだいに意識をうしなっていった。