財産の相続権もないため夫の親族の厄介になるしかない。子供がいなければ、夫と住んでいた家にもいられなくなる。再婚すれば良いではないかと思われるかもしれないが、ヒンドゥー教社会では寡婦の再婚は認められず、一生独身で過ごすことを強制される。

今でもインド北部の一部で残っている風習だが、夫が死ぬと夫の遺体とともに生きたまま焼かれ殉死(サティーすることが当然とされていた時代すらある。インド政府は法律で禁じているため、サティーを実行すれば罪に問われることになる。

ただし、ジャイナ教を中心とした「サンターラ(断食による殉死」は続いているといわれており、ある調査によると年間1000名以上の殉死者があるという。サンターラを実行する女性のうち何人かは自発的にしているケースもあるだろうが、実際は親戚から強要されているのではないだろうか。

ある晩、コルカタ(カルカッタ)の最高級ホテルで結婚式が行われていた。後でドライバーに聞くと「花嫁は非常に太っていて不細工だった。親が金持ちだったのでダウリとして、新婚夫婦用のアパートと車2台(800ccのインド生産スズキマルチ)を準備して、やっと捕まえたそうだ」と言っていた。後述するがインドでは太っている女性は、ふくよかで良いとされているので、ドライバーが敢えて太っていたということは「あんこ型の女相撲取り」ほどだと想像願う。

結婚する平均年齢は年々高齢化しているようだが、2001年後半では女性が20歳前後(30%が15~19歳)、男性が22~23歳くらいだ。既婚女性の50%が20歳前に出産して、20%が18カ月以内で第2子を生んでいるが、上位カーストや金持ちの家では結婚・出産は3、4歳遅くなるようだ。

男性優位の社会であり、女性はダウリが必要になることから、男の子を希望する家庭が多く、昔は出生後に女の子は間引いて(?)いたようだが、現代の医療では妊娠中に性別が分かり、女の子だと中絶されてしまう。出産前の性判別テストは政府により1994年に禁止されているが実行性に問題がある。

ある資料で中絶の件数は年110万件で、女性の50万人が中絶に起因して死亡すると報告されているが、いくら何でもありのインドでもこの50万は多過ぎると思う。もし正しいとすると中絶すると5割近くの女性が死亡することになる。

高い死亡率にも関わらず、中絶件数が年間100万を超えるというのは、それだけ女性の命を軽く見ているのだろう。また子供の数は高等教育を受けた夫婦ほど、1人ないし2人しか作らない。これに対して下層階級やイスラム教徒は子だくさんで、事務所に勤めていたベアラー(雑用係)のイスラム教徒は子供が5人、スケジュールド・カーストからキリスト教徒になった営業マンは子供が4人いた。

男性優位の社会で、女性にとって結婚は重大問題だが、出産も命がけ。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『多様性に溢れる悠久の国 何でもありのインド』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。