ブルーストッキング・ガールズ

3

「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「いい加減にしなさい」

喜久はポンと晴の頭を叩いた。

「ねー、私からもお願いするわ。私、美津さんと何かやってみたかったのよ」

美津は、机の引き出しから帳面を取り出して喜久に渡した。『想い』と表紙にきれいな字で書かれている。

「短歌ね……こんなにたくさん。“野よ 山よ 我は悲しく俯けど 春は近づき 萌えいづる時”……いいじゃない!」

喜久はため息をついた。

「やっぱ違うわ、美津さんは。すてきよ」
「下手くそよ。恥ずかしい」
「こんな調子で、じゃんじゃん創っちゃってよ」

勢いづいて晴が言う。

「じゃんじゃん……そんな……」

紫の風呂敷を大事そうに抱えて多佳がやって来た。晴と喜久は、期待するように迎えた。多佳は正座すると、友達の顔を一人ひとり見渡して厳かに言った。

「ごめん、遅くなっちゃって。紅林先生の原稿、頂いてきたわよ」

晴が原稿を引ったくるようにして、声を上げて読んだ。

「ほんと! 先生の字って本当にきれいね。……“日本の女性は凛としていなくてはいけない。背筋をぴんとのばしていなくてはならない”……私そのものよ」
「何言ってるのよ」

多佳は一息つくと急に真顔になって、

「ところでみんなに紹介したい人がいるのよ。トメさん入っておいでよ」

多佳が襖を開けると、煤(すす)けた野良着姿の少女がいた。美津たちと同じ年頃だ。

「尋常の友達、田中トメさん」

トメと呼ばれた少女は、おどおどしながらおじぎをして、部屋の隅で正座をした。尋常小学校の頃には、こんな子がたくさんいた、と美津は思った。何が起こったのか、何が起ころうとしているのか、少女たちは息をのんだ。

「どうしたの? 怯えているみたい」と晴は、さっきまでの元気がどこかに行ったように、小声で多佳に聞いた。
「実は、トメさん逃げてきたのよ」
「逃げてきたって?」
「人買いに、売られて……」
「えっ、……人買い!」