「こんなの、おかしいわ」

泉は絞り上げるような声を発し、男子大学生の竪穴式住居に駆け込んだ。男子らはげっそりして、床の上で動かずにいた。

無数のぎょろぎょろした目玉が泉に向けられた。外を這いずってきた彼女の頭に、点々と雪が乗っていた。

長い髪はつやを失い、固まって房をなし、ばらばらの方向にはねていた。彼女は土間に膝をついた。そして恨みを込めて言った。

「早坂君は、軌道修正すべきよ」
「泉の言うとおりだ」

盛江の声は力無く、低かった。

「早坂、お前は人を殺したんだぞ」
「よせ」

砂川は床を叩いた。

「あの子は病気だったんだ。早坂だって、みんなのためにいろいろ考えてのことだ。みんなで現代に戻るために、考えに考えて――」
「歴史がなんだ! あの子が死んで、もうみんな揃って帰ることはできなくなったじゃないか!」

盛江は立ち上がった。燃えるような視線の先に、憔悴した早坂の姿があった。早坂は床にあぐらをかいて、即身仏のようにじっとしている。

盛江は拳を振り上げて殴りかかろうとしたが、最初の一歩で足がもつれて床に倒れ込んだ。盛江は膝を抑えて「ひい、ひい」と息を漏らした。自力で立てなかった。

誰も助けに動かなかった。力が出ず、できないのだ。

「みんな」

林が細い声で呼びかけた。彼は戸口に近いところで柱に背をもたれて座っていた。彼はきれぎれに言った。

「明日、力を振り絞って、イマイ村に、行こう。早坂君も沼田君も、それで、いいよね」

早坂は薄い唇を動かして何か言いかけた。だがそれを制するように沼田の手が彼の膝に置かれた。

早坂は沼田を見た。沼田は目を閉じ、首を横に振った。

「早坂君、ぼくも行ってくるよ」
「――分かった」

沼田はうなずき、ほほ笑んで見せようとした。頬に力が入らず、顔が不様に歪んだ。沼田は早坂の返事に安心した。彼は盛江や岩崎の怨念のような殺気をひしひしと感じていた。