Chapter6 理想と現実

ユヒトら縄文の若者たちは、週に一度程度、狩りの途中で笹見平に立ち寄り、柵の外に林を呼び出した。

「ハヤシ、前より痩せたね」
「ああ……大丈夫だよ」
「食料は要らないって言ってたけど、今日はちょっと持ってきたんだ」
「ありがたいが、受け取れないよ」
「ここに来る途中、木の実を拾っているチューガクセーを見た。みんな痩せて顔色もよくない。うまくいっていないんだろう」
「うん……」
「それじゃ冬を越せないよ。さあ、長老からの贈り物だ」
「ごめん」

林は頭を下げた。

「実はぼくたちの間では、ムニャムニャ……が、ムニャムニャ……で、どうしても――」

林は口籠るように言った。空腹で力が入らず、声がひとりでに震える。自然と涙がこぼれる。

ユヒトは絶句した。イマイ村の男児にとって、男が涙を流したり泣いたりすることは、何にも代えがたい恥とされている。ユヒトらは、差し出した土産をひっこめるしかなかった。

「困ったことがあったら、ホントに言ってね」

ユヒトらは何度も振り返りつつ、戻っていった。寒さが厳しくなるにつれ、とれるものはどんどん減っていった。

雪が降って仕事にならない日もあった。しもやけ、あかぎれに苦しむ者、風邪を患って床に就く者、高熱を発してうわごとを言う者――。

備蓄した食料は、思いのほか早いペースで減っていった。少ない食料をケチケチ使っていく。病気の者は衰弱する一方だ。

そしてついに悲しい出来事が起きた。風邪で寝込んでいた一人の中学生女子が衰弱死した。以前、畑の藪でハート形土偶を見つけた女子だった。

泉と木崎は泣いた。空腹で力が入らず声は出なかったが、喉を振り絞って嗚咽した。

他の面々は力無い目で亡骸を見つめていた。悲しいというより、次は我が身と思う気持ちが強かった。