第3章 立ち向かう為の心構え

このような状態に陥らないためにはどうすればよいか

事前から準備をしておく以外に方策はありません、ということは繰り返し述べましたが、どのような方策が良い、と仮にお知らせしたとしても、なにも行動は起こされないのです。大津波防御の為の防潮堤の建設のようなものです。いつ来るか分からない津波の為に、膨大な費用を費やす防潮堤の建設がなかなか進まないのと似ています。津波は一生涯で一度くるかこないか分からないので、費用対効果も不明瞭のままで、検討はされているでしょうが、建設まで時間がかかるものと思われます。

しかし、分譲マンションについては、自明の理ですが、時間とともに建物は劣化していき、賃貸住戸化などの居住形態や居住者の変化があります。その結果、分譲マンションはゴーストマンション化していき、終盤の漂流廃墟マンション状態は必ずやってくるのです。

事前に、分譲マンションの終焉期の勉強や検討をされて、予防の為の行動を起こされ、終焉期を新たな金銭的負担も無く、安心して暮らせ、耐用年限まで納得して迎えられるか。無関心で放置していて、今後、必ずやってくるゴーストマンションの状態に陥り、この状態が、あとなん年続くか不明の中、その間ズーッと不安と絶望の地獄を見、かつ世間の迷惑物になるのか。そんな分かれ道になっても、行動は起こされません。

唯一いえることは、こちらから指南や指導をするのではなく『自分達のマンションの将来のイメージを共有してほしい』ということです。

人の人生でも同じと思われますが、高齢になってくると、自分の人生を顧みて自分史を作る人や、今後のことに向けては、今、住んでいる住宅の行く末のこと、自分の入るお墓のことなどを考える瞬間があるのと同じように、住んでいるマンションの将来についても思う瞬間はあると思うのです。ここがターニングポイントです。

勉強会などで、イメージの共有に向かったならば、あとは簡単です。その心配事や予防策などを具体的に実行していけば良いだけです。

具体的な準備とはどうすればよいのか

準備する検討項目として、以下の各項目が考えられます

1.解体費の段取りを考える 

世帯だけで解体費の段取りができれば良いのですが、不可能な場合、建物付で土地を解体費用相当の値段で買ってもらえるかどうか。非現実的かもしれませんが、例え解体費用相当額で買い取ってもらえるとしても、直ちに実行する訳にはいかないのです。これでは現在、居住している区分所有者の生活を犠牲にすることになり、現実的ではありません。 区分所有者の皆様が、当該マンションに居住し生活しながら、しかも金銭的負担を低く抑える方策でなくては、区分所有者の皆様の同意は得られないと思われます。

2.空き住戸への対応を考える

マンションごと民泊施設として開放するとか、空き住戸になる前に、当該区分所有者から管理組合に寄付あるいは低額で貸与または譲渡してもらう。この場合、当該住戸に関して管理費は免除とし、修繕積立金は管理組合で負担することにします。

これは、解体に向けて区分所有者の拡散を防ぎ、管理組合に所有権を集約するためです。そして、管理組合が賃貸経営や民泊経営をするなど活用を考えます。

その上で、活用益の中から修繕積立金を捻出することにします。空き住戸が相続人不明の場合は、弁護士に依頼して、所在の解明と当該住戸の所有権の措置を促します。

これでも不明区分所有者の所在確認に3年以上かかると理解しなければなりません。

3.自分の住んでいるマンションを総括してみる

区分所有者は、マンションの終焉について勉強をする必要があります。分譲マンションも、いつかは耐用年限を迎えることを理解し、いつまでこの分譲マンションに住むかを想定し、管理組合の解散時期を想定します。

・管理組合解散時期の想定

・長期修繕計画書及び修繕積立金の検証、解体費用の概算金額の検討

管理組合の解散に関する概略のコンセンサスを得て、総会にて概略の決議を得ておくことです。解体想定時期の約40年前程度が良いと思われますが、できるだけ早期が望ましいです。

まず、手持ちの長期修繕計画書を見直し、更新して有効な長期修繕計画書を準備します。次に管理組合の存続(解散)期間、建物の耐用年限を設定し、解体時期の仮設定や解体費用の積立も長期修繕計画書に組み入れた超長期修繕計画書を作成します。 

準備は、早ければ早いほど区分所有者間の負担が平等かつ軽減されることになります。

築30年から40年頃には、検討及び準備に入る必要があります。遅ければ遅いほど処理や対応が難しくなり、最終的には不可能となります。

税金などの助成金を受けて解体できるか

税金などで解体できるのではないか(報道によると、行政の解体代執行や略式代執行では、戸建廃屋は約300万円ほど使って解体しているが)という、淡い期待を思いつかれるかもしれませんが、具体的には期待薄でしょう。

公費で解体して、更地を売って解体費に充当すれば良い、との考えもあるでしょうが、これでも一般市民の理解は得られないと思われます。その理由は、戸建住宅と違って分譲マンションの解体費用は、金額が高額になることです。飽くまで、分譲マンションの所有者の問題であり、税金を使うことには、国民から不満が出ることになります。また区分所有者等の同意は得られても、抵当権者などからの同意は無理でしょう。行政も手出しはできないということです。

また、行政代執行のように行政の力で支援や手助けを受けようとする気持ちが、当該分譲マンションをゴーストマンション化させてしまった原因でもあると思います。特に、木造の戸建住宅でも、自ら倒壊するほどに腐朽するまでの年月は長期とは思いますが、それに比べ、マンションの建物は非常に長いのです。

このように、自ら倒壊するまでの期間を論じても意味がないことなので止めますが、柱や梁といった主要構造体は、自らは倒壊しないと言っても過言ではないのです。イタリアローマのコロッセオ競技場は、築2000年といわれていますが、今でも倒壊していません。中も歩くことはできます。でも建物としての機能はありません。まさに遺跡です。このことと同様に論じるのはナンセンスなことです。

但し、大地震などで大破したマンションの解体を、行政の支援で解体し、その費用は返却しなくてよい、との情報を聞くことはあります。震災地の行政の判断によることと思いますが、この場合であっても、解体した更地を売却した費用で行政に返却する方がよいと考えています。

個人財産まで行政の介入はない

分譲マンションは、区分所有者の皆様方による個人財産の集合体です。但し、個人財産といっても、自由に売買などができるのは各住戸の専有面積部分のみとなり、共用部分は文字通り共有財産となり、単独では自由に売買できません。

建物が存在する間は、共用の階段や廊下、エレベーターあるいはバルコニー部分は共用部分となり、皆様方の共有財産となります。従って、分譲マンションの建物や敷地も、戸建住宅と同じように、敷地内は敷地も含め民間の私的財産となります。

民間の財産には行政の介入はないというのが一般的な考えです。公衆道路に窪みなどの傷みができれば、行政により税金負担で直してもらえます。しかし、各個人の敷地内の事柄については、各自で対応かつ解決するしかないのです。

分譲マンションも例外ではありません。例え、地震などの大災害が起こったとしても、行政が建替えや修繕工事をしてくれることはありません。したがって、このような災難が不幸にして降りかかっても、マンション全体として落ち着いて対応できるように、予め、対応計画書並びに金銭的な準備が必要と考えているのです。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『分譲マンション危機』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。