6つ目の約束

Second

2011年1月9日。私が由里香の、就職活動の為に幾つか書いた「推薦状」が、ひょんな事から彼女の実家に返却されてしまった。それがちょうどそこに遊びに来ていた、彼女の叔母、祖母と、母親の目に、留まる事になってしまった。

推薦状を読まれてしまったことで一家に由里香の状況が、一気に知れるところとなってしまった。逆にこの関係が公になった事で、その後の2人の活動に多くのメリットをもたらしてくれた。

2月5日、新しい環境で奮闘する由里香を慰労する為に、京急金沢文庫駅近くの焼肉屋に向かう。退職した由里香より、3年生まで在籍した高校時代の様子を聞く。いや、どちらかと言うと由里香から口を開いたと言う方が、正確な表現。

「高校のクラスは3つのグループに分かれていてね、オタク系とサーファー系と。」
「由里香は何系だったの?」
何となく回答のイメージが湧くが、敢えて質問。
「私はギャル系」(正解だった)

私服登校可で、単位制の授業を取り入れている高校であり、比較的自由な校風。三浦半島らしくウィンドサーフィンも授業で有ると聞く。海岸沿いに少し北上すると、佐島、秋谷の立石、葉山森戸海岸となり、そこは風光明媚が代名詞の湘南エリアとなる。少子化の影響で、将来は福祉施設として校舎を使用する計画も有り、校舎内に設置されているスロープが、それを物語る。

由里香の焼肉の好みはタン塩、会う時は何時も旺盛な食欲を、見せてくれる(これなら何とかやって行けそうだな)。食後のコーヒーショップで煙草を吸う彼女の横顔を見て、ひと安心。ノースモーカーの自分が縁(えん)する人間には、なぜか愛煙家が多い。

入社した会社でもすっかり馴染んだ様で、品質スタッフとして徐々に実績を上げ始めたとの情報を彼女の上司からの連絡で知ることが出来た。

2011年、9月5日に実施された「QC検定4級」試験に由里香は無事に合格、【1つ目の約束】をクリアした。日常業務でもパソコンを使いこなしている様で、年末の時点で【2つ目の約束】も無事にクリアした。

2012年、由里香は今年で24歳になる。いよいよ「高卒認定」への挑戦スタート(母親とスクラムを組むか……)。挑戦をする娘にとって、母親のサポートは絶対条件である。

由里香の誕生日が8月1日なので、「ポートランド」のTシャツがプレゼントアイテムとなった。横浜元町発祥のブランドで「錨のワンポイント」がお洒落で、特に気に入っている。

2012年11月24日。中華街で由里香と「近藤裕子さん」つまり、由里香の母親と一緒に食事会を開催した。これが【由里香支援プロジェクト結成会】となった。

会食の途中で、娘である由里香の奮闘振りと頑張りを、裕子さんに披露した。私が由里香の事を正確に把握している事に感心されており、ひと安心を得る事が出来た。母親である裕子さんは勿論の事、彼女の兄妹や叔母さん、おばあちゃん、それにお父さん(裕一さん)皆、由里香支援プロジェクトの「強力サポーター」となっていた。

由里香の高卒認定取得必須科目は「生物I」「世界史A」「数学」の3教科であった。
(由里香は英語が得意であったが、「数学」が苦手だと言っていたな)

2012年が終わろうと気忙しくなった12月の下旬、以前より予測していた名古屋本社への転勤の内示が私に有った。

2013年1月22日。名古屋本社転勤による私の、小牧への赴任と、勉強の激励メールを由里香に送る(予想していた事とは言え、由里香も名古屋転勤に対して、不安がある事を、言下に私に伝えていた)。次の日、彼女からたった2文字の返信が有った。

『嫌だ』

由里香が感情を露わにした、初めてのメールであった。