矢車菊の秘密 平成十八年五月十五日掲載

最近、鯉のぼりを掲げる家も少なくなってきました。鯉のぼりの季節になると決まって目立ち始めるのがピンクや青の矢車菊(ヤグルマギク)です。案の定、その名も花の形が鯉のぼりの柱の先につける矢車に似ていることからついたようです。ヤグルマソウと呼ぶ人もいますが、矢車草はユキノシタ科の別の花のことです。

ヨーロッパ原産のキク科の一年草で、ヨーロッパでは麦畑によく生え、英名はコーンフラワー。コーンとは小麦のことを指すそうです。ドイツの国花で、学名のセントウレアはギリシャ神話のケンタウルスがこの植物の葉で傷を癒したという伝説からつけられたものだそうです。古代エジプトのツタンカーメン王の墓からも発見された由緒ある花です。

あるとき私は、矢車菊の中心部に立っている色の濃い柱状のものに触れてみました。そのとき、びっくりすることが起きました。その先からモコモコと白い粉のようなものが吹き出てきたのです。

早速帰ってから調べてみたら、何と雄しべが刺激されると内部にできた花粉がトコロテン式に外へ押し出される仕組みだと、ある本に書いてあるではありませんか。

よく訪れるミツバチ類が蜜を吸いに来たついでに接触し、それが刺激となって花粉が吹き出し、ハチの体に花粉が付いて受粉の手伝いをさせると言うことです。自然の妙味に感心するばかりです。

皆さんも矢車菊の中心部を触ってみてはいかがでしょうか。

突然の訪問者ネジバナ 平成十八年七月十八日掲載

梅雨の晴れ間にふと見ると、狭い庭のわずかな芝生に憧れのネジバナを発見しました。

思えばその存在すら知らなかった学生時代、キャンパス内の芝生にまさしく「ニョキニョキ」と生えるネジバナに出会いました。一つの花の直径はたった五ミリほどで、花が螺旋状にねじれながら茎につくのでネジバナという名前がつきました。案の定、学名のSpiranthes(スピランテス)も「螺旋の花」という意味でした。

それはまるでDNAの螺旋構造の説明図のようにも見えます。最も進化した植物と考えられているラン科の植物で、よく見るとカトレアのような形でランの仲間であることに納得がいきます。ところで植物の蔓の巻き方は、アサガオは右巻き(下から見て)というふうに植物の種類によってほぼ決まっています。

不思議なことに、植物界全体では右巻きが圧倒的に多いのですが、その理由は分かっていません。蔓ではありませんが、ネジバナの花のつき方は右巻き左巻きほぼ同数で、私が大学時代見つけたものでは左巻きの七回転半が最高でした。

螺旋状に並んだ小さな花は下から上へ咲き登り、「頂上に達する頃に梅雨があける」と言われています。その逆にハチが上から下へ螺旋状にぐるぐる回りながら蜜を吸っている姿が今でも印象に残っています。

関心がなければ私たちの目になかなか映らないネジバナが、そろそろ梅雨の終わりを告げているように見えます。

関東ヘイヤのモロヘイヤ 平成十八年八月三十一日掲載

三年前の夏のある日の食卓。思わず「雑草」と言いたくなるような、見た目の悪い街路樹の葉っぱのような謎の野菜がありました。さっとゆでて鰹節をふりかけ、味ぽんをかけて食べようと箸でつまんだらそのヌルヌルネバネバに驚きました。これがモロヘイヤとの出会いでした。

ネバネバは『ムチン』という成分でオクラやなめこ、里芋などの「ネバネバ野菜」に含まれる水溶性の食物繊維で、コレステロールや中性脂肪を低下させる働きがあるそうです。

その他にもカロチンとカルシウムなどの各種ミネラルが豊富で、万病に効く緑黄色野菜の王様と呼ぶ人もいます。最近どこのスーパーでも売っていますが、日本では一九八四年に本格的に導入された野菜だそうです。

古代エジプトの王様の難病がモロヘイヤのスープで治ったという伝説があり、それ以来モロヘイヤをアラビア語で「王様の野菜(ムルキーヤ)」と呼ぶようになり、それが訛りMulukheiya(ムルーヘイヤ)となったのが語源のようです。

関東平野とは全く関係ありませんでした。今、家庭菜園のわずか1㎡の範囲にモロヘイヤの苗が育っています。凄いのは葉を切っても切っても、脇から新葉が生えてきて何度も収穫できることです。食べて健康に良し、その生命力・再生能力の不思議さも味わえ一挙両得です。

* 突然日本に入ってきたような「モロヘイヤ」。本当に不思議な野菜です。夏ばて予防に最高です。私はもっぱら冷や奴に乗せ、鰹節をふりかけ、味ぽんをかけて食べています。本当にうま~い。

土筆(つくし)と杉菜(すぎな)の関係 平成十九年六月十九日掲載

早朝、家の近くを走りました。竹藪にさしかかるとホーホケキョーとウグイスの求愛の声?が聞こえました。また、どこに行ってもスギナが生い茂っていました。

「ツクシ誰の子スギナの子」という言葉のように、ツクシが大きくなるとスギナになると思っている人がいます。スギナの語源は杉のようだから杉菜、あるいはどこの節を継いだか当てっこする遊びから継ぎ菜がスギナになったという説もあります。

地下茎が長く這い、早春にツクシと呼ばれる胞子茎を、次いで緑色のスギナと呼ばれる栄養茎を出します。正確には、ツクシという名の植物はなく、ツクシとはスギナという植物の地下茎から地上に出る、胞子を作るための特別な茎のことなのです。ツクシの穂から煙のように大量に出てくる緑色の粉が胞子です。この無数の胞子が発芽してスギナになるのですからスギナだらけになるのも納得できます。

顕微鏡で生徒に見せたら「何だこれ変な形してる、クモみたい」。そして、その不思議な生物(胞子)に息を吹きかけた瞬間、「キャー」と悲鳴を上げた生徒、思わず飛び上がってびっくりした生徒、「うわー、動いた」と言って興奮する生徒。理科室は興奮のるつぼと化しました。