第三の男

最近、なかなか捕まらない銀行強盗の話は有名だ。その犯人は身長百八十㎝以上、黒い帽子に黒い服を着ていて、右目上に大きな傷がついている凶悪犯らしい。その男は自分の顔を見た人を、あるいは、自分の犯罪に少しでも関わった人を容赦なく殺すらしい。

私の仕事は深夜タクシーの運転手だ。今夜は夏なので暑い。暑さのせいか、最近大事なことなどを忘れやすい。

仕事中、私が公衆トイレに行っている間、少し車を空けていた。車に帰ると、大きなバッグを持っていて、黒い帽子に黒い服を着ている男が私の車をたたいている。

私がその男の近くに行って、その人を見下ろしながら、「何してるんですか? それは私の車ですよ」と言ったらその男は「早く乗せてくれ。急いでるんだ」と言った。

「冷房が壊れていますが大丈夫でしょうか」
「ああ、構わん」

乗車拒否はできないので彼を車に乗せたが、私は彼が銀行強盗の犯人ではないか、と疑っていた。身長は百八十㎝以上ありそうだ。しばらくしてから私はラジオをつけた。すると銀行強盗の新しい情報が流れていた。

どうやらまた五千万円を盗まれた銀行があったらしく、犯人はナンバープレート333のタクシーで逃げたという目撃情報が入ったらしい。ナンバープレート333といえば、このタクシーのナンバーだった気がする。

私は気づかないふりをして「お客さん、今日は暑いですね」と、震えた声で言った。ふと、ルームミラーでその男の顔を見ると、左目に傷があると判断した。鏡で見ているのだから逆の右目に傷があるはずなのだ。間違いない。