第1作『ブルーストッキング・ガールズ』

襖の向うで、宣誓するような大声で叫び、襖をパーンと開けて晴が登場した。

「愚痴だけじゃないわよ……いよいよ私たちが立ち上がるときが来たのよ。そう、元始、女性は太陽であった。そうよ、私たちは今こそ太陽になるべきなのよ!」
「ほんと、かぶれちゃったみたいね」
「でしょ」
「お女郎さんだって、ストライキやってるのよ」
「ストライキ、何、それ……」
「主張して自由のために戦うことよ」

――しののめのストライキ、さりとはつらいね、てなことおっしゃいましたかね――

晴は太い銅鑼声(どらごえ)で歌い出した。十年ほど前に、京都の東雲(しののめ)楼という遊郭で娼妓らによるストライキ騒動があったときに流行った俗謡だ。晴はなぜか、こんな古いことまで知っている。

「私、調子が悪くなってきた」

喜久が頭を抱えた。

「いい、不当な暴力を使う官憲と私たちは戦うのよ」
「はいはい」
「官憲横暴!いい、東京では平塚明はる先生が、頑張っておられる。そしてこの町ではこの鈴木晴が、女性解放の狼煙(のろし)を上げるのよ。私たちは、今目覚めるのよ!」