十三

マキシマ社の総従業員数は、高倉着任当初の三千人から、二年後の現在二千五百人体制となっている。

「それはわかる、アパルトヘイト時代には、彼らはまともな教育を受けられなかったのだから当然だろう。いま斉藤さん中心にやってもらっている訓練をしっかり継続することが肝要だ」

この言葉に、斉藤が、
「ほとんどの従業員がすでに初級コースを終えて、中級コースに入っています」
と報告した。高倉はそれを聞いて少しホッとした。

「第二要件の教育訓練は順調に進んでいると理解する。それでは、アンドルー、次にBEE第三の要件を説明してくれ」

アンドルーは左手で髭をいじりながら答えた。
「黒人管理職の登用です。目標としてマネージャー数の一〇%を黒人に割り当てなければなりません」

その説明に、高倉はしばらく考え込んでいたが、

「いくら政府の方針だからといっても、黒人の管理職は今は無理だなあ。私は肌の色や性別とかには関係なく、その能力のある人は登用しなければならないと考えている。だが……まだ駄目だ。これは黒人に対する偏見ではない。私が南アフリカだけではなく、今までアフリカのあちこちを回って見てきた結論だ」

「いや、それは偏見ですよ。優秀なのはいますから、それを見つければいいんです。ところで、マネージャーに見合う人の条件とは何でしょうか?」

黒人の管理職としての能力に疑問を呈した高倉に、『黒人を登用せよ』という政府の方針に従うべき、とするバート・グッドマンが質問をした。

アンドルーも聞きたかったらしく、うなずいている。

高倉はまた少し考えて、
「能力と姿勢だろうね」
と答えた。するとバートは、
「具体的に言ってもらえませんか」
と突っ込んだ。

「縦軸と横軸で例えるならば、縦は実務能力だ。何でもいい。経理でも技術でも何か秀でた深いものがなければならない。実務がわからない人にマネージメントは出来ない。横の能力は幅広い知識とか見識、そしてビジョンを持っていることだ。

グループとしての夢を描いて、その実現に向かうプロセスを作れなければならない。それと顧客第一の姿勢だ。直接、間接を問わず、顧客へのサービスを常に第一に捉えていること。その条件を満たす人物を発掘して登用することが我々会社幹部の重要な役割の一つだ。

そこには白も黒も黄色もない。その能力にある程度目をつぶって、政策的に黒人を登用することは、いくら政府の要求であっても出来ない」

高倉がそう断言したときに斉藤が、

「ちょっと待ってもらえますか。訓練後の考課テストの結果を持ってきます」

と言いながら走るように出て行き、すぐにぶ厚いファイルを抱えて戻ってきた。そして訓練結果一覧表を会議テーブルに広げ、それを指で追いながら言った。

「実は成績抜群の社員が三人います。即マネージャーという訳には行かないかもしれませんが、目をつけておく必要があると思います」

アンドルーと秋山が身を乗り出してそれを覗き込んだ。