第二章 ゼロからのスタート~父の跡を継ぐ

当時、山国川河口の漁師たちは、「マンガン」という漁具を使って漁をしていました。鉄で作った漁具で、戦車マンガンとも呼ばれていました。

幅二メートルくらいでしょうか、両脇にそりがついていて、五センチほどの間隔で爪のついた刃物が海底を搔いていきます。これを使うと結構な漁獲量になるのです。

魚はベタやカレイ、カニ、車エビ、シャコなどが獲れました。父の作るマンガンは評判もよく、漁師がよく注文してくれていました。

ある時、中津の鋼材会社にマンガンの材料を買いに行きました。トラックなど持っていませんので、父とリヤカーを引いていき、鉄板や鉄筋パイプなどの鋼材を買って帰ろうと思っていました。鋼材を選び、価格を聞くと五万円ほどでした。

「この仕事が終わったら、来月すぐに支払いますので、それまで待ってください」と言うと、そこの社長が「五万円の金もないもんに、うちの鋼材は売られん」と言いました。口惜しさと父に嫌な思いをさせたことに言いようのない情けなさを感じ、「よし、今に見ておれ」と涙をこらえ、何も積んでいない空のリヤカーを引いて帰りました。

その後、父と昔一緒に働いていた人が隣の市の鉄工所に勤めているというので、訪ねていきました。私を小さい時から可愛がってくれた伊藤さんという方で、その人に相談しました。そこの工場は地元では大きいほうで、大型のプラントなどを手掛けていました。