第1章 マンションの現状と課題

分譲マンションの建設や販売の現状と今後の動向

分譲マンションの建設は、昭和43年頃から増加の一方を辿ってきましたが、平成21年を境に減少に転じました。(参照:図表1)

とはいえ現在でも、好立地条件の場所などで次々と建設されています。その上、売れ行きも好不況の判断基準である販売時点での売買契約率が70パーセントを超えて80パーセント近くになっていると聞きます。

[図表1]分譲マンションの供給戸数

どのような購買事由が背景にあって高いのかは知りませんが、2020年東京オリンピック景気とでもいうべきものなのでしょうか。それは悪いことではないと思うのですが、その分譲マンションの建物や住まわれている皆様の遠い将来の姿が、筆者には見えないのです。

購入者の皆様にとっては、自分の生活について近い将来が見通せればそれで良いのでしょうから、とやかくは言いませんが。

特に問題なのは、既に新築から築30年以上の『高経年マンション』と言われる分譲マンションで、その高経年マンションの将来のことが心配なのです。新築から10年未満の比較的新しい築浅マンションと高経年マンションとでは、其々、建築された時代の技術基準に準拠した建築材料や設計指針あるいは品質の作り込み方法の内容に違いがあると思われることです。これは良し悪しの問題ではなく、時代の変化による違いで仕方のないものです。

一例ですが、高経年マンションに使用されている配管材料は、鉄を主材とした鋼管が多数と考えられ、その鋼管の錆による漏水事故や、あるいは屋根葺き材などの防水材料の耐久性に問題が生じているなど、材料の品質にも時代の推移や性能の向上があるからです。

築30~50年の高経年マンションの増加の推移は図(※2)のようになっています。今から10年後の令和10年時点では、平成元年までに建設されたマンションは、築40年以上の超高経年マンションとなり、戸数にして全国で約200万戸程度に、更に令和20年には、築40年以上の超高経年マンションは約370万戸になると図は示しています。

これら超高経年マンションが必ず遭遇するであろう終焉期マンションの様子や、無策のままだと必ず訪れる漂流廃墟マンション化について、どの様に予防策を立て終焉期を迎えればよいのかを明らかにしていき、皆様の分譲マンションにとって、少しでも参考となり、その時の為に、事前に準備と段取りをすることにより、将来不安をなくし、安心して最後まで生活を送って頂ける分譲マンションにして頂きたい、との思いで本書を発刊しました。

[図表2]築30~50年の高経年マンションの増加の推移

分譲マンションは、無限の将来にわたって快適で安心して住み続けられるか

仮に、今住んでおられる分譲マンションで、なにかあれば転売して転居すればよいと考える区分所有者もおられると思いますが、将来的には転売をしたくても買い手のつかない分譲マンションとなっていきます。

あなたの分譲マンションの将来を想像して頂ければ良いのですが、現在住んでおられる大部分の区分所有者の皆様は、将来のことは次世代の区分所有者や転入してくる新しい区分所有者が考えることであり、自分達には直接関係のないことと思い、興味を持たれないのです。

人間個人の人生の終焉と同じように、例外なく必ず訪れてくるご自身の分譲マンションの終焉に対する準備には、全く興味を示されないのです。今のままで将来のことを考えない態度を続けていても、そのうち社会問題化してくれば、国や行政がなんとかしてくれて支援や解決をしてくれる、と思われているのかも知れません。

しかし、皆様が考えておられるような、区分所有者にとって有利な支援は受けられません。人の人生の終焉は、自分の死去だけのことで済みますが、分譲マンションの終焉は、難しい事柄が内在しており『管理組合の解散』という終焉を迎えたくても迎えられないのです。区分所有者全員の合意で管理組合は解散できると、民法251条や区分所有法第55条から解釈できると思われますが、現実的には解散できないのです。今までの事例にしても、具体的に建物解体決議や管理組合解散決議はないに等しいと筆者は認識しています。

皆様の分譲マンションも、やがて老朽化が進み、空き住戸が徐々に増加し、管理組合の活動もままならず、限界マンションといわれる状態のマンションとなることが予想されます。住民のモラルは低下し、ゴミなどの管理はできず、マンション管理会社とのマンション管理委託契約も管理会社の方から継続を拒否され、継続したくてもできず、建物についても解体費用の蓄積もなく、解体もできず管理組合も解散できないゴーストマンションとなっていきます。

自分の住んでいるマンションが、近い将来にこのような状態に陥るとしても、現在の自分には無関係と思われている区分所有者が非常に多いのが現実です。いざという時には、転売して出て行ってしまうつもりなのでしょうが、転売に出してもなかなか買い手が付かないと、売値を下げることになり、次に買われた居住者の財産管理意識も希薄になり、徐々に円滑な管理組合活動も難しくなっていきます。

このように、マンションの終焉状況を皆様に解説しても、自分のこととして考えにくい特徴があるのです。文字通り「後は野と成れ山と成れ」と思われている区分所有者の方がおられるかもしれませんが、分譲マンションはそうはいかないのです。これは沈黙の臓器といわれる膵臓に起きる膵臓癌と同じく、初期症状に自覚症状はなく、しかし症状が徐々に進行し、自覚症状や病巣が発見された時点では、手遅れで治癒は難しく致死率が高い病気と同じなのです。膵臓癌の予防は難しいかもしれませんが、分譲マンションの漂流廃墟マンション化の予防は対処方法があるのですから。

しかし、ただ、誰も重要度や緊迫度を理解されていないために、なんの回避策も立てず時間だけが進み、いつの日にか、現状を目の当たりにして、誰かが、なんとかしなければいけないと思いついて、立ち上がり行動し出した時点では、残念ながら遅きに失した行動であり、漂流廃墟マンション化は止められないと考えてください。

しかも、全ての分譲マンションが、必ず通ることになる運命なのですから深刻なのです。特に、超高経年マンションである築40年以上の分譲マンションにとっては、早急に予防行動をお勧めいたしますが、前述のように無関心なのです。

自分の家の庭にごみを捨てられると、憤慨し警察に訴えたり防犯カメラを設置したりして予防策を立てるのに、マンションのごみ集積場所が汚くされたりごみが捨てられていても、個人的には憤慨しません。今住んでいる分譲マンションのことでも、自分にとって直接の影響がない場合は無関心なのです。

戸建住宅に置き換えてみても同じことです

戸建住宅でも築30年や40年も経過すれば、どこかが壊れたり腐朽など老朽化してきます。以前からあったテーマですが、住むとすればマンションが良いか戸建住宅が良いかというテーマで報道や週刊誌で論じられてきましたが、どちらも一長一短があり、お住まいになられる人の考えにより選択してください、というのが結論でした。

修理や修繕の必要な時期は双方とも訪れます。分譲マンションは、計画的に修繕の為の積立をされ、計画的に修繕工事をされますが、戸建住宅は壊れた時や具合が悪くなった時に、修繕費用もその時に段取りされているのが現状で、計画的に準備されている訳ではないと思われます。

戸建住宅と分譲マンションとの大きな違いは、戸建住宅は老朽化したり空き家になったとしても特段の事情がない限り、いつでも自由に解体することができます。極論すれば、出たとこ勝負でいけます。

しかし、分譲マンションは、そうはいかないのです。薄汚れていて管理されていない老朽化したマンションは、周辺環境にも影響を与えますし、周辺住民からは敬遠されます。

ただ解体については、新築に建替える為の解体は区分所有者の4/5以上の賛成が必要ですが、管理組合を解散する為の建物解体は、区分所有者全員の賛成が必要です。財産がなくなる訳ですから当然です。地震などで被災したマンションなどの例外(※3)wはありますが、解体資金や再建資金などの問題でも進まないと思われます。

分譲マンションは区分所有建物であり、区分所有者の共有財産の側面もあり、財産価値の維持は生活の維持でもありますので、地方自治体により運用の違いはありますが、建築物や敷地などの定期調査が、建築基準法第12条第1項で義務化されており、安全性などの状況が調査されかつ役所に報告されることになっています。

しかし、建物の解体の為の積立準備金に関する考えは、国土交通省のガイドラインにも出ていません。国土交通省に於いても、この課題について検討されていると思われますが、今後は解体準備金の手立てのガイドラインも必要になってくると考えています。

※3  被災マンション法:政令で定められた大規模な地震などの災害をうけた地域で、分譲マンションの取壊しを望んだ場合は、区分所有者の4/5以上の賛成で解体ができるとされた特別措置法

終焉状態に至るまでにも地震や台風などによる被災場面の到来もある

建物が、経年による老朽化に至る途中にも、地震や台風などによる災害など予期せぬ災難に遭遇するかもしれません。阪神淡路大震災、東日本大震災そして熊本地震での分譲マンションは、どのように復旧工事を段取りしていったのか、また生活の継続を維持していかれたのでしょうか。

筆者は、熊本地震で壊れた分譲マンションの被災者の皆様の声を聞きに現地にいきましたが、復旧が遅れる大きな要素のひとつに「マンション側に復旧に対応できる資金がないこと」でした。前述の通り、このような資金をストックしておく考え方はありませんので当然のことなのです。若い区分所有者なら、復旧に対する対応力もあるかもしれませんが、同じ分譲マンションに住む高齢の区分所有者には、対応力を望むことは困難かと思われます。

国内で、万が一の災害時に復旧できる資金の積立をされている分譲マンションは、皆無だと思っています。しかし、本書は、このような場面に遭遇したとしても、対応できる方策をも提案しています。後述していますので、役に立ててください。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『分譲マンション危機』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。