第1章 認知症とはどのような病気か?

◎多彩な症状が現れる「レビー小体型認知症」

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、つい最近(1990年代後半)までは、その存在も知られていませんでした。横浜市立大名誉教授の小阪憲司医師による1976年以降の一連の報告で症状や病態が明らかになりました。

認知症患者の死後、脳組織をいろいろな染色液で染めてゆく研究過程で、大脳皮質や脳幹の神経細胞の中に「レビー小体」という物質が観察されました。そして、レビー小体型認知症の原因はα-サイヌクレイン(α-シヌクレイン)という蛋白でできている「レビー小体」であることが分かりました。

疫学的調査によると、アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで患者さん数が多く、認知症全体の15~20%程度(他のタイプとの混合型を合わせると全体の20%程度)といわれています。

男性に多く、発症しやすい年齢は60歳以降ですが若年層にもみられることが分かりました。全経過はアルツハイマー型認知症より短く約7年です。

レビー小体型認知症の中核症状3項目は、認知症、幻視(具体的で、ありありとした)、パーキンソン症状です。これらの症状も階段状に進行しますが、症状は良くなったり悪くなったりといった具合に動揺し、短期的にみれば前進・後退がみられます。すなわち、日あるいは時間帯によって、症状の出方が違うという特徴もあるのです。

レビー小体型認知症の場合、認知機能障害が激しく変動し、幻視・錯視・誤認妄想は現実的で詳細な内容が繰り返して出現するとされています。パーキンソン症状のうち、3項目揃えば確診(DLB)、2項目で多分(probable DLB)、1項目では可能性(possible DLB)とされています。

初期に幻覚、幻視や錯視、妄想がでるのが特徴ですが、アルツハイマー型認知症と比べ近時記憶は比較的保たれます。幻視や錯視の出現率はアルツハイマー型認知症で30~40%、レビー小体型認知症で50~70%といわれています。

幻視とは、実際には存在しない物が本人には見えたり、それが襲ってくるというもので、それは人であったり、小動物のことが多いようです。錯視とは、実際にあるものとは違うものが見えると主張する(見間違う)ことをいいます。なお、幻聴は幻視と比べて頻度は低く、単純な幻音、幻声が多いとされています。

[図1]レビー小体型認知症が疑われるMRI像
80歳女性。記憶障害などの認知障害、パーキンソン症候群、幻視。レビー小体型認知症疑いで4年経過。主剤をドネペジルとし、他にエルドパ(l-dopa)などを服用中。海馬の萎縮はないが、側頭葉の萎縮(特に左側)が目立つ

また、パーキンソン症状(手指が震える、動作が遅い、声が小さい、無表情、歩行障害、小刻みに歩く=小股歩行、安静時に体の一部が震える、筋肉がこわばる、最初の1歩が出ない=すくみ足、転ぶと起きられない)や繰り返す転倒がみられるのも特徴の1つです。

ADLの障害があるにもかかわらず、神経学的に病的反射などはなく、頭部CTやMRIで脳梗塞巣もなく、歩行障害の原因となる頸椎や腰椎の異常も認めない場合には、本症を疑う必要があります。

その他の特徴に、焦燥感、攻撃性、睡眠中に夢を見て大声で怒鳴ったり叫んだりして布団の上で手足をバタバタさせたりする「レム睡眠行動障害」(睡眠時の異常行動)があります。レム睡眠とは、浅い眠りのことで、身体は眠っているのに、脳が活発に動いている状態です。

一方、ノンレム睡眠とは、脳も身体も深い眠りにある状態です。レム睡眠中の脳波は活動しており、前記の症状は夢をみている最中の発現が多いので「睡眠時の異常行動:レム睡眠行動障害」と名付けられました。

抑うつ症状の出現頻度も高く(40%)、その他、しばしば起立性低血圧による立ちくらみ、頑固な便秘、頻尿、尿失禁、発汗過多、寝汗などの「特発性で重篤な」自律神経障害がみられます。図形模写の障害やキツネ・鳩テストの障害も本症を疑う所見です。

幻視や認知機能変動は、アセチルコリン濃度低下と関連しているため、コリンエステラーゼ阻害(阻止)薬で認知機能の変動や幻覚、妄想を軽減させることがあります。

ただ、レビー小体型認知症の患者さんは、薬に対する過敏性(抗精神病薬を含め)が懸念されるため、患者さんの状態を診ながら、薬の用量を調整しています。

MRI画像では、側頭葉から頭頂葉の萎縮がみられますが、海馬の萎縮はアルツハイマー型認知症に比べると軽度です。脳血流をみるSPECT画像では頭頂側頭連合野、後頭葉の血流の低下が特徴とされています。

治療、介護の注意点は、以下のとおりです。

1)認知機能が変動しやすいので、リハビリは意識がはっきりしているときに行う
2)転倒しやすいので、十分な見守りが必要
3)血圧の変動が大きく、起立性低血圧によるふらつきや意識消失が起こることがある
4)抗精神病薬の使用により、過鎮静や錐体外路症候群(パーキンソニズムなど)が出現しやすいので、注意が必要
5)幻覚があっても本人が自覚している場合には、完全に抑制しなくてよい場合がある
6)食べ物が飲み込みにくくなった場合には、誤嚥を防ぐとともに、食物を細かく刻む、トロミをつけるなど、調理の工夫をする