あの講演会に行って無理をしてしまい、さらに調子を崩してしまったのだ。帰ってから、高熱が出て苦しんだ。往診に来てくれた今村医師にも、こっぴどく叱られた。

喘息が止まらなかった。血痰まで出てしまい、少し後悔した。しかしあの夜のことは、美津にとって抱きしめたいぐらいの大切な時間だった。

木島の文学への思い、恋愛という言葉、そして今の社会の不条理、それらが耳に残り、彼女の心の中で、共鳴し、反射していた。興奮とも昂揚ともちがう、静かに燃える力になった気がする。

喜久がやって来たのは、学校が終わって四時頃だった。

「調子よさそうじゃない。心配してたのよ。この前木島先生のところに連れてったから、具合悪くなったんじゃないかって」
「うん。調子に乗りすぎたかも知れないな」
「はい、きんつば」
「……ありがとう。感動的だったな、木島さんの話」
「影響されたのは、あなただけじゃないのよ」
「えっ」
「晴さん」
「えっ、晴さんが」
「今こそ私たち女性が自立するときが来たって〈ブルーストッキング・ガールズ〉を結成するんだって」
「ブルーストッキング? 青鞜社のこと? 平塚らいてう先生のでしょ。それは分かるけど……何をするの、そこで」
「学校に対して私たちの思いを主張するんだって」
「主張って、何を……」
「さー、お菓子を食べて、学校の愚痴を言い合うだけの集まりになるんじゃない」
「それじゃあ、今までと同じじゃない」
「そうね」と二人は笑った。
「でもいいな、素敵かも知れないな。ブルーストッキング・ガールズか」
「うん」

※本記事は、2018年3月刊行の書籍『ブルーストッキング・ガールズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。