ところが、左目の視力がひどく悪い結果だったのです。そして、眼科医から告げられた病名は、「心因性視力障がい」でした。父親がF君に聞くと、「検査のお姉さんが逆にと言ったので、全部逆に答えたんだ」というのです。

視力測定者は、目を隠す棒をもう片方の目にと言ったつもりでしたが、F君はさらに、答えまで逆に言ってしまったため、左目の検査は見事に外れたわけです。父親は眼科医に、「うちの子は自閉スペクトラム症で、行間がうまく読めないのです。決して心因性ではないと思います」と丁寧に訴え、再検査をお願いしました。

しかし、眼科医は、「俺の診断が信用できないのか?」と怒鳴って追い返してしまったというのです。これは嘘のような本当の話です。

相手の話を冷静に聞かない自己中心的な点、親御さんが丁寧にお子さんの病気を説明したにも拘わらず自分の意見に固執する点、急にキレた点、看護師に聞いたところ、今回に限ったことではなく、以前にも同じようなことが何回かあったという点、以上から考えると、この眼科医は発達障がいの様相があります。

このような例は、意外とさまざまな病院で多く語られています。医学部に入り、国家試験も通ったような人間でも、発達障がいでないとは決して言い切れないのです。医師は、専門的な技術を求められる割合が多く、それまで勉強をしてきた自分の興味のある分野の知識が職業でも非常に役に立ち、個人の能力がものを言う場面が多いので、発達障がいによる症状があったままでも、何も指摘されずに社会で暮らしていきやすいように思います。

しかし、他の学部、特に文系は、必ずしもその人が持っている専門知識を活かせる職業に就けるとは限りません。発達障がいを抱えている人は、興味のある仕事に就けば、驚くほどの能力を発揮しますが、自分のやりたいことから少しでも外れると、興味が持てずに辞めてしまう傾向があります。

また、「子どもの将来が見えずに困っている親たち」の項で説明した通り、コミュニケーション能力の問題から辞める人も少なくないのです。勉強ができるからといって発達障がいではないとは言い切れません。勉強ができても、少しでも発達障がいの兆候がお子さんに見られ困っていたら、躊躇(ちゅうちょ)せず専門医とまず相談すべきでしょう。

そして、例えば、ADHDにより不注意が多いとわかったのであれば、どんなところをミスしやすいのか、デスクの目に見える位置に貼っておくなど、自分の苦手なことを知ることで、前もって対策が立てられるはずです。症状を認識し、対策を立てることが、持っている長所を活かし社会で成功することにつながることでしょう。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。