第1章 医療

聴こえる

「雑音が聴こえる」。62歳のGさんは長く東京で暮らしていました。でも定年を機に1年の半分を故郷である当地で生活することを決めました。Gさんは当地へ来るまで糖尿病の治療を受けていられたようです。でも手持ちの薬が無くなったため処方を希望され、たまたま化石医師の外来を受診されたのです。

糖尿病はありますがGさん自身は何の症状もありません。元気で何の問題もなく、当地で喫茶店を開く予定で準備されていました。当院の受診は初めてでしたが自覚症状もないことから、型通りの診察を受け薬を貰って帰るつもりでいたことと思います。

診察を進めて行きますが特に何の問題もありません。最後に腹部の診察をしていた時です。Gさんのお腹の上部で本来無いはずの異常な音が聴こえて来ました。「ザーザー」というその音はお腹の血管の異常を知らせる雑音でした。

念のためもう一度丹念に腹部を触ってみます。何も触れません。でも何度聴き直してもやはり血管雑音が聴こえて来ます。すぐに腹部の超音波検査、CT検査を行いました。その結果は進行した膵臓がんでした。血管雑音は膵臓がんが血管にも浸潤したために生じたものでした。

何の自覚症状もなく、自分は元気だと思われていたGさんの運命はこの日で変わってしまいました。がんが重要な血管に浸潤しているため手術はできません。化学療法を受けられましたが当院を受診されてか8か月後旅立たれたようです。