第3章 上司との付き合い方

現場監督をしていたゼネコン社員が辞める理由の上位には、上司絡みの理由がランクインする。上司が嫌な奴だったとか、上司を見ていて将来性に疑問を持ったという理由だ。この諸悪の根源のようにも感じられる「上司」とうまく付き合わずして、スマートゼネコンマンにはなれない。

結論から言うと、上司とうまく付き合う秘訣は3つある。

① 上司を出世させる

② 魔法の言葉「ご指摘ありがとうございます」を使う

③ 仕事を見てもらう仕組みを作る

この3つだ。

① 上司を出世させる

まず、ほとんどの場合、上司の最大の欲は、「出世したい」だ。人は自分の欲求を満たしてくれる人を好きになる。だから、出世したいという上司の欲求を叶えるような行動を取れば、あなたは気に入ってもらえるし、そうなればあなたの業務を助けてくれる確率も上がる。上司の出世を助ける一番の方法は、上司の仕事を奪うことだ。

現場監督であるあなたの上司となれば、工事主任とか、グループ長などの役職であることが多いだろう。現場だけでなく設計者や施主を含めたプロジェクト全体をマネジメントするのが本来の役割で、当然あなたより多忙かつ責任も重いはずだ。しかし、やる事が多すぎて、本来やるべき現場全体のマネジメントにまで思考が回らない場合が多い。そこで、上司の仕事の中からひとつでもあなたが仕事を奪えば、その分上司は現場全体に目を向ける時間も、心の余裕も増える。心の余裕は、業務の品質精度に直結する。

あなたが率先して仕事を奪い、上司がヒマになればなるほど、現場全体をゴールに導く精度は高くなる。それができれば結果としてプロジェクト全体の社内評価が高まり、上司の評価も高くなる。そしてその上司は出世していく。嫌な上司も出世すれば、自分の現場には降りてこないから、嫌な上司に出会った時ほど、上司を出世させるチャレンジゲーム! いきなり難易度MAX! とでも捉えて、早く出世してもらえばいいのだ。

だけど、上司から仕事を奪うのは簡単ではない。上司は出世したいのと同時に、自分の地位を脅かされたくないからだ。だから、いきなり奪おうとすると、警戒されてしまう。そうならないために次の方法が有効だ。

② 魔法の言葉「ご指摘ありがとうございます」を使う

上司に警戒されずに、それどころか上司の方から笑顔で仕事を渡してくれる魔法の言葉が、「ご指摘ありがとうございます」だ。しかし、この魔法は使い方を間違えると逆効果になる場合もあるので、次のイロハを守って使って欲しい。

イ)落ち込んだ表情で使う

ありがとうございます、は前向きな言葉で基本的には笑顔で使うだろう。でも、この魔法を使う時、「ご指摘」という言葉の通り、あなたは上司に叱られているはずだ。それどころか、場合によっては感情をむき出しにして、ただストレスのはけ口にされているような怒られ方をしている時もあるかもしれない。

そんな時に笑顔でいると、ちゃんと話を聞いてないように見えてしまい「バカにしているのか!」と上司も逆上してしまうことだろう。そこはやっぱり、しっかり怒られている感を演じることが大切だ。

あまりに理不尽な怒られ方をされたり、生理的に受けつけないような上司に説教されてしまっている時などは、いくら意識しても心が強制的に閉ざされてしまい、演じることすらできない時もあるだろう。

そんな時には、アンカリングというテクニックをオススメしたい。

僕が使っていたのは、親指と人差し指で〇印を作る、いわゆるOKサインだ。怒られている最中に、膝の上や背中に手を回したりして、上司に気づかれないよう、それとなくOKサインをする。そうすることで、「大丈夫! 何とかなるよ」というプラスのエネルギーが少しずつ出てきて、怒られて沈みそうになる気持ちを繋ぎ留めてくれるのだ。要は、何でもいいから、楽しくなるような仕草─しかも上司に気づかれないようにこっそりできる仕草をしておくことで、怒られて落ち込んでしまいそうな、嫌気がさしてしまいそうな自分の精神状態を、平静なポジションに保っておくことができるのだ。

腰や背中をくすぐったりしたこともある。笑いそうになる自分をこらえるのに精一杯なので、嫌味なことを言われていたって聞いている余裕がなくなるのだ。アンカーとは、港で船が停留する時に繋ぎ留めておく錨のこと。アンカリングとはつまり、何かの行動によって、後からくる感情にまどわされないように、自分を繋ぎ留めておく技術のことだ。

うまくアンカリング効果が出ている時は、どんな嫌味を言われても心が落ち込むことはない。むしろ、効果が暴走している時は、怒られているのに思い出し笑いをしてしまいそうになって危険な時もあるくらいだから、よく注意してほしい。

ロ)「ご指摘……ありがとうございます」くらいの「間」で使う

いくら魔法の言葉でも、棒読みだったり早口だったり、気持ちがこもっていないと効果はない。事態を自分なりに重く受け止めた上で、自分の成長を願って指摘をしてくれたんだ、という深い思念を表現するには、「ご指摘」から「ありがとうございます」に移るまでの絶妙な間をとって欲しい。バカバカしいと思うかもしれないが、間をコントロールできるかどうか、これはスマートゼネコンマンにとってとても重要なスキルだ。

上司や職人はもちろん、設計事務所や発注者など、様々な関係者とコミュニケーションを取るゼネコンマンは、いかに各方面とスムーズにコミュニケーションを取れるかが大切だけど、それぞれ立場も違えば人によって性格も違う。その違いを乗り越えてコミュニケーションを成立させるには、間をうまくとり、相手に合わせた緩急あるコミュニケーションが必要なのだ。上司とうまく付き合うこの魔法の言葉も、間がとても大切で、場合によっては「沈黙」と思われるくらい間をうまく使うことで、更に効果を引き出すことができる。

西洋のことわざに「雄弁は銀、沈黙は金」というのがあるけど、こちらからいかにも上司の怒りをなだめるような言葉を選んで使うより、沈黙している間に上司が自らの頭で「少し言い過ぎたかな」と色々考えるので、その時間を与えた方が、いい結果に繋がったりするのだ。間違っても上司の指摘に対して、食い気味に魔法の言葉を使ってはいけない。

ハ)怒られた最後に使う

間と同じことだが、指摘をされている途中からありがとうございます、を連発しては効果が発揮されない。様々な指摘(嫌味も含んでるかもしれないけど)を受け止め切った後、「以上で終わりですね?」の言葉に替えて魔法を発動するのだ。

あなたにとって上司が強敵すぎる場合は、指摘が終わるまで我慢できないこともあるだろう。アンカリングを駆使しても途中で怒りが爆発しそうな場合は、我慢せずに爆発してしまってもいいと思う。怒りに任せて感情的な言葉をぶつけ、上司と喧嘩になったとしても、まだチャンスはある。また別の場合には、途中から体が拒否反応を起こして全く脳がシャットアウトすることもあるだろう。でも、それでもいい。

一度はその場の感情で喧嘩したり、シャットアウトしたとしても、その後に使っても魔法の言葉は威力を発揮するのだ。上司がその場を去り、誰もいなくなったところで、こっそりと「ご指摘、ありがとうございます」と唱えてみて欲しい。不思議と、ただ苛立っていたこれまでに比べて、少しずつでも改善要素が見えてくるはずだ。そんな上司からでも学べることがあると思えば、次回からは怒りを爆発させたり、心からシャットアウトしたりすることは少なくなるだろう。

もちろん、理想は上司にちゃんと聞こえる方がいい。捨て台詞ではないが、別れ際の言葉の選び方は様々なコミュニケーションにとって重要だ。毎日の業務でも、「帰ります!」と言って帰るのと、「お先に失礼します」と言うのでは印象が違う。

何が良い悪いではなく、それによって相手に与える印象が違うということをあなたが認識しているかどうかが重要だ。たとえば帰りの挨拶では、僕も普段は「お先に失礼します」と言っていたけど、飲み会があってテンションが高く、一目散に帰りたい時などは大声で「帰りまーす!」と言っていたし、怒られてヘコんでいた時は無言で帰ったこともある。

そして次の日、「なんで無言で帰ったんだ!」とまた怒られたけど、そんな事を繰り返しながら、自分の選ぶ言葉や行動ひとつで、相手の印象が変わることを身に染みて学んだのだ。上司に対しても、去り際の言葉の選び方、使い方を是非意識してみてほしい。   

そしてこの魔法も、最後に使うことで効果が最大になることを僕自身が実証してきたのだから、安心して使ってみてほしい。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。