その晩、大学生男子の竪穴式住居に、全大学生と中学生リーダーが集まった。
長らく行われていなかった幹部クラスの会議が、久々に行われるのである。

林・岩崎らイマイ村融和派と、早坂・沼田ら歴史不変派の確執は根深く、何日も口も利かない状態が続いていた。特に早坂の態度は徹底していて、昼のウサギ肉も頑として口に入れなかった(沼田は早坂に隠れてこっそり食べた。「塩がほしい」と呟くのを木崎が耳にしている)。その早坂と沼田も臨席した。林のたっての願いで、不承不承集まったのである。

張り詰めた空気の中、林が口を開いた。
「今日集まってもらったのは、今後のあり方について、きちんと全員で方向を決めたいと思ったからだ」

早坂は冷ややかに言った。
「今さらなんだ? 俺が反対してるのに、まともな話し合いも無く縄文人と交流を続けたりして。話し合う意味なんか無いじゃないか。それとも何か? 歴史を捻じ曲げすぎて、訳が分からなくなったのか?」

林は答えず、全員を向き直って尋ねた。
「今日の昼、ウサギの肉を食べたよね? あれ、どうだった?」

「うん。固かったな」と盛江。
「臭みがあった。血抜きが足らなかった」と砂川。
「調味料があればだいぶ違ったかも」と泉。

「味のことじゃないよ」林は顔をしかめた。「問題は量だ。一人一人に回ったのはサイコロステーキ一個分くらいだったよね。あれって、気持ち悪くて食べなかった十人と早坂君の分を除いて、全部であの量だったんだよ。約五〇人を抱える笹見平の口を満たすには全く足りない。

ぼくがみんなに考えてもらいたいのは、笹見平の食料事情だ。備蓄は減る一方、畑は未だ実験段階、狩りは大騒ぎしてウサギ一匹。かといって、いつまでもイマイ村をあてにするわけにもいかない。ぼくたちは自分の食い扶持を自分で得る努力をしなきゃいけないよ」

早坂は仰々しく、
「歴史を変えてでも生きようと言ったお前が、今になって縄文人から独立をするために何か考えようと言い出すとはな」

「早坂君、きみだって飢え死にしたくはないだろう」

「誰だってそうさ。でも根本を間違っちゃいけない。海を漂流して乾きのあまり海水を飲み始めたら、もっと乾いて苦しむことになる」

早坂は吐き捨てるようにそう言うと、すっくと立ち上がった。そして一同の顔を見渡し、演説するように話し始めた。

「一体我々は、何日も何日も、何のために杭を打ち込んでいるのだろう? 柵を作るのは獣の侵入を防ぐため―もちろんそうだ。俺としては、柵の中を現代の飛び地と捉えて、縄文時代との干渉を避ける狙いもあるが……まあ、今はそのことはおいておこう。柵についちゃ、俺はこうも考えている。

柵で囲った領域は、これはもうそのまま資源なんだ。俺たちは資源をもっと活かさなきゃならない。畑を作り、実のなる木を植える。水源の小川から支流を引っ張って領域内に行き渡らせ、魚を釣ったり養殖したりする。柵内を徹底して生産体質にし、獣や縄文人の干渉を避け、領域の価値を高めていく。それが理想であり、在るべき姿なんだ。そう考えると、俺たちはまだ、できることを全然やれていない」

「おい!」盛江が声を荒げた。「こんなに毎日柵の土木工事を頑張ってるのに、やれてないとは何て言い草だ!」

「落ち着け。盛江。発想がいかにも現代的だ。縄文時代は苦労したら誰かが認めてくれるような甘い時代じゃないぞ。お前たちはそれを分かっていて縄文人と仲良くしているんじゃないのか」

盛江は言い返せず、憤りに肩を震わせた。早坂は続けた。

「とにかく、やれることをつきつめてやろう。その上で最効率化を図らなきゃいけない。頭のいい奴は頭を使い、筋肉の強い奴は身体を使う。大きなことは何事も頭のいい奴が決めていく。個々の特性に特化して全体の利益に結び付けるんだ」

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。