・安易な事故報告書作成は危険

医師逮捕がセンセーショナルに報道された衝撃的事件があった。福島県立大野病院事件である。平成16年12月17日、前置胎盤で帝王切開術を受けた患者が死亡。事故発生後1年以上経過した平成18年2月18日、業務上過失致死と医師法第21条違反の容疑で、産婦人科医が逮捕、翌月起訴された。

この逮捕のきっかけとなったのが、平成17年3月に、賠償保険請求目的で作成された事故調査報告書である。東京女子医大人工心肺事件の冤罪被害者、佐藤一樹医師が逮捕・起訴されたのも院内事故調査報告書が原因である。

事故調査は、医療安全の観点から、事実経過の把握、原因分析のために、自立的・自律的に行われるべきものであるが、現実は、紛争対策・賠償保険金請求目的・周囲からの批判逃れ等種々の目的が混在しがちである。これらの冤罪事件に照らしても、事故調査報告書は細心の注意が必要なことは明白であろう。

2014年、対照的な注目すべき二つの事件が発生している。一つは、同年4月18日の国立国際医療研究センターのウログラフィン誤投与事件である。当事者医師は、個人責任が追及され、禁固1年執行猶予付の有罪となり、医師免許証停止処分となっている。

他の一つは、同年12月29日、大阪府立急性期・総合医療センターで発生した、筋弛緩剤(マスキュレート)と抗菌剤(マキシピーム)を誤投与して、患者が死亡した事件である。こちらは不起訴処分で終わっている。同一年に発生した類似の単純過誤事例での対照的な結果の違いを考えれば、事故調査報告書を始めとする院内の適切な対応が重要と言うべきであろう。

・本項のおわりに

医療事故調査制度創設論議の経緯のなかで、大きな成果となった医師法第21条の「外表異状」での決着に至る経過をまとめてみた。医師法第21条の決着も、「医療の内」の制度と「医療の外」の制度を切り分けることにより解決に至ったと言うべきであろう。

医療事故調査制度は医療安全の制度、即ち、「医療の内」の制度として構築するとともに、医師法第21条は、「医療の外」の問題として、医療事故調査制度とは切り分けて、合憲限定解釈による「外表異状」の考えによりコンセンサスを得られたものである。

事故調査報告書が凶器となりうることについても言及した。事故調査報告書作成に当たっては、あらゆる角度から、細心の注意を払うことが必要である。また、敢えて、日医の対応への疑問を提示した。

医師会は上意下達の組織であってはならない。安易に日医を鵜呑みにせず、その対応を注視して行く必要があろう。

※本記事は、2018年12月刊行の書籍『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。