第1章 医療

転倒

「認知症と転倒、骨折」という講演会に期待して参加しました。当日は医師だけでなくケア施設のスタッフも沢山参加していました。それだけ関心が高いことを示していました。

しかし聴講結果はいささか物足りない内容でした。何故なら予防についてはあまり触れられなかったからです。

認知症で徘徊する方が転倒しやすいことは誰でも考えやすい。肺炎などで認知症の方を一般病棟へ入院させますと、病棟スタッフからいい顔をされません。看護ステーションを覗くと昼夜を問わず何人かの認知症患者さんがスタッフと一緒にいる光景が目に入ります。

大声を出しじっとしていない。あるいはごそごそ動いてベッドから落ちる。そんな患者さんを抱えたスタッフは少しでも目の届く所にいて頂いて事故を予防しようとしているのです。でも自分の仕事を抱えながらそのような認知症の方に声をかけたり話をしたりしつつ目配りすることはスタッフの負担になっています。

そのため離床センサー使用や転倒防止マット使用などの承諾申請も増えています。もっと進めばつなぎ服の着用、ベッド柵の使用、手足の抑制も必要となって来ます。何とかしたい。何とかならないか、何か良い方法はないかと思うのはこうした患者さんを抱えるスタッフの気持ちでしょう。

認知症患者さんのケアの手法であるユマニチュードでは立って頂くこと、歩いて頂くことを重視しています。立ち、歩くことにより骨粗鬆症の進行を防ぎ筋力も強化されるという理論です。

言い換えれば転倒骨折を恐れるあまり運動制限を加える、あるいは抑制することはかえって骨塩量の低下、筋力低下を招き骨折しやすい状態を作り出すのです。

さて最近、当院の療養病棟のスタッフが興味あるデータを出しました。病棟での転倒事故が前年より半減したのです。患者さんのベッド回りの環境整理、アイコンタクトをはじめ意思疎通を十分に行うことの徹底、患者さんの自由を損なう身体拘束をできるだけ行わない。そうした試みを1年間行った結果です。