香子を自分の車で彼女の部屋まで送っていってから、翔一は自分のお店に向かう。

「さすがに、日曜の夜はいつもよりも人が少ないな」

確かに歩道はそう見えるけど、車道はいつものとおり渋滞している。My Pointsのダンスフロアーにも、ゲストの姿はチラホラ見かけるだけ。

『今夜はなんとなくノれない気分だな』と思いながら、DJブースに入っていく。

「おはようございます」

山崎が、翔一に声をかけた。

「おはよ」

一番短く答えた。

「今夜は、ヒマそうですねぇあんまり人、歩いてなかったっスよね外も」
「日曜だしね、仕事のほうもそれなりにパワー落としていこうよ」
「そうっすね」
「理恵(見習いDJ)が、来たらお客さんのいるときに、まわさせてみてもいいからな」
「はい、わかりました」

DJブースのほうは山崎に任せて彼は控え室で、新二からの電話を待った。自分のポケットから、愛用のパイプをにぎり出して掃除を始める。

マリファナ用のパイプって、その形があまりにも小さい。煙草用のものとは違う。堂々と持ち歩かないものだからたびたびヤニ掃除をしてやらないと、すぐに詰まって、吸えなくなってしまう。

ライターの火を大きくして、管に詰まったヤニを思いっきり燃やして吸う。そして、火口にこびりついているヤニもパイプの受け口を逆さにして大きくしたライターの火にかざして焼く。そして柔らかくなったヤニを以前、霞町のフーピーで買った『ローリングペーパー』で、拭き取る。

「ついでにスクリーンも替えとくか」

スクリーンとは、ステンレス製の細かいアミのこと。火口で、燃えたマリファナの灰が、吸い口の細い管に入らないようにするため、火口の底に貼っておく。

これを貼っておかないと、一発でつまる。掃除が一通り終わったら1、2度、吸ったり吹いたりして、通り具合を確かめてみる。

「んー、いいみたい」

そう言って彼は、新しいクサをパイプの火口に詰める。しかし、これをやると毎度のことながら新しいクサをセットするまでもなく、この時点で既にブッ飛んでいる。でも、せっかくだからセットしたクサも、とりあえず一服してみる。そして、

「やっぱヤニはくさくてだめだよなぁ、かなり飛ぶけどね。フレッシュなのがヤッパ1番だね」

にっこりしながら彼は、独り言をつぶやく。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。