程なく、社長室へ集まったこの四人が、高倉のいわゆる側近たちである。

彼らが社長室へ入ると、高倉は通常オープンにしているドアを閉めながら、窓の外を指差して、

「あの塀の内側に我々はいる。いわば刑務所の中だ。この中は安全だが外は危険で歩くことはできない。外を歩く黒人たちは自由の身だ。けれども金がなく自由を満喫できていない。アパルトヘイトは廃止されたが、どっちも不幸な状況になっている」

と、暗い顔をして言った。

「アパルトヘイト廃止から十二年経過しましたが、まだまだ過渡期なんですよ。彼らはまだ差別されている意識が強く、卑屈になっているのです。もう何年かすれば、塀の内も外も差がなくなります」
と、アンドルーは意外に黒人自身のせいのように言った。

「卑屈になっているとすれば、やっぱりそれは白人の責任のような気がするなあ。白人が支配していた長い時代に、黒人にまともな教育を受けさせなかった。それがやはりいまだに影響していると思う。私は若い時にアフリカの色々な国を見てきた。多くがイギリスやフランスなどから独立し、黒人の地位を勝ちとった国々だ。だが、生活が向上したような気配はないし、逆に汚職やもめごとが頻発し、健全とはいえない国が多い。アフリカの発展は簡単ではない気がする。斉藤さん、どう思いますか?」

高倉は斉藤に意見を求めた。斉藤は以前ニホンタイヤの技術サービス員として西アフリカのC国に駐在経験がある。

「はい、私もそう思います。特にナイジェリアはひどいです。黒人同士で政治の主導権争いや部族間の対立、宗教問題などで常に政情不安定な状態です。せっかく資源があるのにもったいないことです。空港のパスポート・コントロールで係官が袖の下を求めるのも相変わらずですよ」

「そうだよなあ。私も昔、ナイジェリアのラゴス空港での入国審査でひどい目にあった。一カ月の滞在ビザを持って行った。パスポート・コントロールで『何日間滞在するんだ』と聞かれたから『十日間だ』といったら『では一週間の滞在許可を与える』と言った。私は『何で一週間だけなんだ?』と抗議したら『では三日間の滞在許可を与える』『それはおかしいだろう!!』『では滞在許可は与えない。すぐ帰れ』という始末だった」

バートがクスッと笑って聞いた。
「それでどうしたんですか?」

「結局そこに仲介人があらわれて、百米ドルの袖の下を払わされてやっと通してもらった。今は懐かしい思い出だが、当時は本当にいやな国だと思ったものだ」

「私もそんなことは何度もありました。パス・コントロールの係官と仲介人がグルになってるんです」
と斉藤がうなずいた。

「ナイジェリア人全体が悪いわけではないのに、イメージ落しているよなあ。アフリカは黒人がしっかり運営すればいいのに、なかなかそうはいかないんだなあ」
と、高倉はため息交じりに言いながら続けた。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『アパルトヘイトの残滓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。