犬の金玉の秘密 平成十五年四月十四日掲載

今どこの道端にも青い小さな花が辺り一面に咲いています。春の訪れを知らせる「オオイヌノフグリ」です。高浜虚子の句に「犬ふぐり、星のまたたく如くなり」というのがあります。千葉県の柏あたりでは、この花をホシノヒトミ(星の瞳)と呼ぶそうです。

フグリとは星がキラキラ輝くようなロマンチックな意味かと思ったら、とんでもありませんでした。丸い玉を二個並べた果実の形が、オス犬の股間にみられる陰のう(睾丸)に似ていることからついた名だということです。

和歌山県あたりの方言「犬のキンタマ」がそのものズバリで、フグリとは睾丸を意味する古語だったのです。この花の可憐な美しさに対して、この下品な名前を改めようと学者によって幾つかの名前が考え出されましたが、とうとう一般には定着しなかったようです。

早春の野に一面、星の輝くごとくに咲くこの花を、犬の金玉などと呼びたくないので、私は毎年生徒に「ホシノヒトミ」と呼ぶように訴えます。しかし、生徒達はこの実を手の平に乗せて眺めてはニタニタと笑っています。

さて、この花には秘密があります。夕方になると両側に離れてあった二本の雄しべが動いて、中央の雌しべの柱頭に寄ってきて、自家受粉(自分の雌しべに自分の花粉を付けること)をするのです。種の保存に対する執念を燃やすのです。日暮れ前に一度、植物の神秘の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。

ペンペン草の命名由来の誤解 平成十五年五月十三日掲載

『神様がたった一度だけ この腕を動かして下さるとしたら 母の肩をたたかせてもらおう 風に揺れる ペんペん草の実を見ていたら そんな日が 本当に来るような気がした』

これは星野富弘さんの四季抄『風の旅』の中の、有名な「ペんペん草」という詩です。ペんペん草が風に揺れるのを見ていたら、「母の肩をたたきたい」という星野さんの叶わぬ願い、優しい心根が思わず涙を誘います。

さて、毎年恒例の「春の草花調べ」の授業で、一年生の生徒にナズナのことをどうして「ペンペン草」と言うのですかと聞くと、あちこちで「ペンペン鳴るから」と言う答えが返ってきます。何がペンペン鳴るのですかと聞き返すと、「葉っぱをむいて振ると鳴ります」と得意そうに答えてくれます。

そこで「みんな良く知ってるね。誰が教えてくれたの?」と聞くと、口々に「お母さん、お父さん……」と答えます。そう言う私もずっと、果実(ハート型の葉に見えるもの)の柄をむいて耳元で振ると、ペンペンと音がするのでこの名がついたと思っていました。

しかし、よく聞くとペンペンとは聞こえず、シャリシャリがせいぜいです。本当は果実の形が三味線を弾くバチに似ていることから、三味線の音色「ペペンペンペン」を連想してついたと言われています。別名「バチ草」とも言います。

「情は人のためならず」同様、全く違う意味で覚えている人が実に多いことに驚かされます。
 

 

この状態で振るとペンペン音がするからは誤解である

※本記事は、2018年7月刊行の書籍『日本で一番ユーモラスな理科の先生』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。