「翔ちゃん、私夕飯のお買い物に、行ってくるわね」

「うん」バスタオルで頭を拭きながら言った。
「なにか、食べたいものある?」玄関で、スニーカーをはきながら香子が訊く。
「香子ちゃんの一番得意な料理がいいな。僕は食べ物に好き嫌い、ないから」
「OK」そう言って香子は、部屋を出ていった。

この間に翔一は、相棒の新二に連絡を取り、横浜のDJミックに返事をしなければならない。

なんとなく後ろめたさを、感じながら
「もしもし新二?」
「あぁ翔ちゃん、おはよう。早いね」

「うん、それで、こないだ横浜行ったときに振られた例の話なんだけどさ、さっき連絡が入ってさぁ、500グラム『右左(右から左へ、まとめて一回で流すこと)』なんだけど、プライス(値段)どうする?」

「うーん500を『みぎひだり』かぁキロ引きすると、1グラム700円になるんだよねー、300円安いと結構違うよ、500グラム50万、1000(1キロ)だと70万だよ。で、相手にはまだ『プライス』伝えてないんでしょう?」

「うん、一応グラム2000円以下にはなると思うよって言ってあるけど」

「とするとグラム1700円だとして、85万かじゃそれで行こうよ、キロで引いといて500グラムはストックしとこう、すぐにでるでしょ500ぐらい」

「そうだね、片山も、オーダーしてくると思うしね。半分(1キロの半分)出して、引き値の70万は『クリアー』になるから残りの500は、2000円で流しても、100万の利益があるね」翔一が、言った。

「いやー翔ちゃん、マジでDJ辞めてこっち一本にしたほうがいいんじゃないの?」新二は、ひやかすように言った。

「馬鹿なこと言ってないで、早く先方と日取り決めて、折り返し連絡ちょうだいよ」
「はいはい、解りました。じゃあ後で連絡します」

受話器を置いてから、ほぐしてあった『クサ』を、パイプにつめて一服した。

『ここんところ、どんどん扱う量が増えてきている。すこし、ルート(ドラッグを流す地域)を広げておかないと、まとまった量を手元に長い時間置いておくことになる。それは、万が一の場合大きな痛手を、負うことになる。金銭的にも、そして時間的にも。マイナスは、少ないほうがいい。なるべく』

そう思いながら翔一は、古い友人を一人一人、思い出しながら誰に流すのがベストなのか考えていた。

※本記事は、2017年9月刊行の書籍『DJ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。