開腹手術となると短くても20日くらいの入院が必要となります。腹部に手術痕も残ります。また胆管を切開するため後遺症も残ることもあります。私が当院に赴任した当時は日本でもまだ総胆管結石の治療の主体は手術でした。今日では外科に回ることはまずありません。

この間30年弱。ベトナムの医療は日本より30年以上遅れていることになります。

現在日本では総胆管結石の治療ばかりでなく早期胃がん、大腸がんの切除や食道静脈瘤の治療、消化管出血の治療などが内視鏡で行われています。しかも素晴らしいことにこのような先端医療が都会の大病院での特殊治療ではなく坂下病院のような片田舎の病院でも普通に行われているのです。

国民皆保険になってから日本人にとって医療は身近なものとなりました。日頃何気なくごく当たり前のように受けている医療が世界から見れば高度先進医療なのです。その意味では日本人は自分達の医療環境についてもっと感謝しても良いのではないかと思います。

病気の発生は地域の環境、経済、文化と私達(宿主)の力関係により左右されます。同じように治療、ひいては病気になられた方の寿命もこの力関係により決まって来ると思います。

日本とベトナムの医療の違いは経済力と文化の差でしょう。フエ市の内視鏡トレーニングセンターでは総胆管結石だけでなく、早期胃がんの内視鏡治療の指導も行う予定だそうです。

鼻から挿入する経鼻内視鏡も備えられました。センターに派遣される指導医はまだ経験数年の若い医師のようです。でも異国で苦労し指導する中で、きっと大きく成長されるでしょう。

ベトナムに投じられた一石ですが、ベトナムの医療充実のために内視鏡トレーニングセンターの成功を祈ります。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。