第Ⅰ部 医療経営戦略

第2章 医療におけるマーケティング戦略

顧客維持型のマーケティング戦略

従来のマーケティング戦略はいかに新しい顧客を創造できるかという視点がメインでしたが、新規顧客を獲得するには従来の顧客を維持する以上に膨大なコストがかかるため、近年顧客維持型のマーケティング戦略が注目されています。

新規顧客の獲得にかかるコストは、既存顧客の維持にかかるコストの約5倍と言われており、新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持(離反防止)を目的とするべきです。ここではいかに顧客を維持していくかという戦略について述べていきます。

1.スイッチングコスト

継続して利用している製品やサービスから、代替性のある製品やサービスに乗り換える際に発生するコストのことをスイッチングコストと呼んでいます。スイッチングコストが高ければ、顧客は簡単に代替財へ乗り換えることはありません。

スイッチングコストには、買い換えの金銭的負担(金銭的コスト)だけではなく、新しい製品等を学習しなければならないという手間(手間コスト)や心理的ハードル(心理的コスト)までが含まれます。

日常的なたとえとしては、WindowsからMacintosh(Apple)に替える際にはソフトを新たに購入するための費用や、新たにソフトの操作を覚えるといった手間コストが生じます。

他にもスイッチングコストの例では、理髪店で髪を切るのに、普段と違う店に行くと、どういう髪型にしたいかを最初から説明しなければなりませんし、もしかすると変な理容師が担当になるかもしれないという不安があります。そんな心理的リスクもスイッチングコストなのです。

ただし、以前この話をお洒落な女性医師に話すと常に理想の美容室がないか、すなわち常にスイッチすることを考えていると反論されましたので、美容室のマーケティングは大変です。

なお、顧客の離反を防ぐべく、スイッチングコストを高くしている戦略の代表は携帯電話業界です。解約費用が高く設定されているのは他社への切り替えを防ぐ戦略ですし、他にも航空会社のマイレージやコンビニのポイントカードも、他社への切り替えを防ぐ手段です。