第2章 職人との付き合い方

コミュニケーションの秘訣は「聞き上手」

職人とのコミュニケーション力が高いスマートゼネコンマンを注意して見ていると、共通して聞き上手であることがわかる。コミュニケーションに関するノウハウ本はたくさんあるけど、そのほとんどに「傾聴」という言葉も出てくる。やはりこちらが話すよりも、相手の話を「聞く」というのがコミュニケーション力アップに欠かせないのだろう。

【第7回】で述べたように、後輩Mが起こした奇跡の物語も、まずは職人の要望を「聞く」ことから始めたのが成功の秘訣だったのだろう。

職人は不器用な人や、シャイな人も多いので、最初は怖いと感じるかもしれない。でも、そういう職人に限って教えたがりだったりするもので、強面の職人さんなのに話してみるととても丁寧に教えてくれるなんてことが建設現場にはよくあるのだ。ただ聞いているだけでも、やたらと自分の主張ばかり話す人に比べればマシだろうけども、職人が心を開いてくれるほどにコミュニケーションを深めるには、ただ聞くだけではなくて「傾聴」のスキルはあった方がいい。

僕が実践していたのは、①ペーシング、②オウム返し、③パラフレーズ。この3つの傾聴スキルだ。まず、①ペーシングは、相手のペースに同調すること。話し方、姿勢、テンションなど、相手がハイテンションで話しているならこちらもテンション高く聞いてあげた方が相手だって気分よく話しやすい。逆も然りで、深刻な話をハイテンションで聞いたら絶対に怒られるだろう。まずは精神的なペースを合わせることで、相手から話しやすいと思われる空気を作るのがペーシングだ。

そして②オウム返しは、相手の言葉を、そっくりそのまま返すことだ。よく漫画などで、相手と同じ技を返す必殺技とかにも使われたりする。いわゆる「復唱」のことだ。例えば職人から電話がかかってきて、「5階の壁の施工順序ってどうなるの?」と言われたとする。いきなり答えから話したくなる気持ちを抑えて、「5階の壁の施工順序は」というオウム返しを入れた上で答えを話すのだ。

こうすることで、相手側は「ちゃんと聞いてくれているんだ」という安心感が更に高まる。話を聞いてもらえることがわかると、話す方も気分がよくなるので、色んなことを話してくれるようになる。(※せっかちな職人の場合は、同じこと2回も言わなくてもわかってるだろ! とか怒られたこともあるけど 笑)

最後に、③パラフレーズだ。言葉は難しいもので、人によって定義の違い、感覚の違いがあって、同じ言葉を伝えても認識の程度が変わってくるのが普通だと思う。この認識のズレをなくすために、パラフレーズ=言い換えが有効なのだ。

「ということは」という言い方が一番使いやすい。例えば、「これ、急ぎでやってほしいんだけど」なんて依頼はままあるけど、話す側の思っている「急ぎ」と聞き手の「急ぎ」に違いがあったためにトラブルになることは想像しやすい。

急ぎなんだから、1時間以内に対応してほしかったのに。と思う一方、急ぎっていうから今日中にやっとけばいいのかと思っていました。という風な具合である。

こういったトラブルはパラフレーズを使うことでほとんど解消できる。同じ例でいくと、「これ、急ぎでやってほしいんだけど」と言われたら、「急ぎですね。ということは、〇〇時までにやれば大丈夫ですかね?」というやり取りがオウム返しからパラフレーズの流れだ。

ここで認識の違いがあれば、「いや、△△時までにやってほしいんだよ」と、より具体的に相手の求めていることがわかってくるのだ。この傾聴の3スキルを自然に使えるようになれば、職人とのコミュニケーションは飛躍的によくなるはずだ。

更に短期間にコミュニケーションを高めたい場合は、ここに④褒める、というスキルも入れてみて欲しい。もちろん、相手のペースに合わせないといけないが、褒めてもらって嫌がる人はあまりいない。ほとんどの職人は褒めることで機嫌がよくなり、何でも話してくれるようになるはずだ。

「職人」ではなく、一人の人間として付き合う

混同は社会人にとってご法度かもしれないが、私公混同は進んでした方がいい。こんな言葉をどこかで聞いたことがある。職人との付き合い方も、これに当てはまるように思う。仕事中にプライベートのことばかり考えているようだと、失敗したり、うまく仕事が進まないことがある。だけど反対に、プライベートの時に仕事の話をすることで、いつも以上に理解が深まったり、その後の仕事でスムーズにコミュニケーションが取れたりする。

つまり、職人とプライベートの時間を共にすることで、日々の仕事においてもプラスの効果があるのだ。俗に「リア充」と呼ばれるような、毎日いきいきと人生を謳歌しているような人たちは共通して、仕事以外にも、生きる目的だったり、楽しみを持っている。職人も、帰ってからの晩酌が楽しみだとか、連休を使って夜釣りに出掛けることが楽しみだとか、季節のお祭りに参加することが生きがいだとか、仕事以外の趣味やライフワークがある人が多い。そのために、毎日働いている、という感覚だ。

ところがなぜか、ゼネコンの職員はというと、仕事以外やることがなかったり、あるいは仕事に追われすぎてプライベートでやりたいことをやれないという人の方が、僕の周りには多かった。そして、そういうゼネコンマンは例外なく、楽しくなさそうなのだ。そんな、働くために生きているようなゼネコンマンに限って、同じ価値観=つまり、プライベートよりも仕事が大事だという価値観を職人や周りの職員にも押しつける傾向があったように思う。

数年前からダイバーシティという考え方が建設業にも浸透し始め、多様な価値観を容認する風潮は少しずつ出てきたのだろうけど、まだまだ古い体質は根強く残っている。「職人なんだから1日こんだけ働いてなんぼ」という考えをする人もいるのだろうけど、今の時代、それが万人に共通しているというのはあり得ない。

確かに最終的に求められている結果を提供することは必須事項だけど、その過程は、人によって様々あっていいはずだ。そういう、寛大な考えを持って職人一人ひとりと向き合えば、少しずつ心を開いてくれる。やがて気の合う職人が見つかればプライベートも共にでき、更に仕事の話も弾むようになる。

ゼネコンを退職した今もプライベートで良くして頂いている職人が僕にもいる。東京に行けば一緒にお酒を飲み、家に泊めてもらったりもする(楽しすぎてほとんど記憶はないけど)。たった一度しか同じ現場になったことはなかったけど、出会ってから10年以上たった今でも会えば仕事の話も盛り上がり、夢を語り、お互いに有益な情報交換ができる。そこまで付き合いが深くない人でも、SNSで今も連絡の取れる職人が何人もいる。人生の大きな財産を、建設業が僕にプレゼントしてくれたのだ。

そこまで職人との関係が深まれば、もう現場で心配することは何もない。あなたにとって、とても強力な味方になってくれるはずだ。

ちなみにこれは、部下にとっても同じことが言える。職人に対する態度が偉そうだと職人は言うことを聞いてくれなくなるように、部下に対しても偉そうな物言いをしていては、やがて部下が指示通りに動いてくれず、組織として機能しなくなる。

ゼネコン社員同士が組織として機能しなくなっては、職人がどうこう言っている場合ではなくなるだろう。部下といっても入社年度が下なだけで、年下も年上も、同い年もいる。自分と同じような学歴を持った人もいれば、時には東京大学卒業、〇〇へ留学といった輝かしい経歴の持ち主もいる。

みんな、ゼネコン社員である前に、これまで様々な経験を積み重ねてきた一人の人間なのだ。そこをないがしろにして、「仕事なんだから上司の指示通りやればいいんだ」と言われてもうまく機能するはずないのだ。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。