第一章 ほうりでわたる

技術の習得

大牟田での工事も終わりに近づき、今度は新小倉発電所の建設が始まりました。

新港に寮があり、そこから発電所まで歩いて通います。途中埋め立て地の中を通っていくのですが、「でこぼこ道や曲がりくねった道♪」の歌のような、まだ整地できていない道を、通勤者が踏み固めた道なき道でした。

発電所の鉄骨工事が終わり、骨組みが終わった段階から、配管工事の準備をしていきます。高層の鉄骨の上を歩く時は足がすくみます。高所で作業する者はトイレに困ります。柱の四隅に小便用のパイプが配管されていて、各階ごとに鉄板で作られパイプに接続した大きなメガホンのような形の便器があります。

小便をする時は柱の手すりにつかまり用を足しますが、高所では下から吹き上げる風も強く、顔に酸味の利いたシャワーがかかります。

乾燥した肌に自前の酸性化粧水をスプレーして、何事もなかったように「社会の窓」を閉め、首にかけたタオルで顔を拭き現場に戻ります(大の場合は下に下りるしかありませんでした)。現在はもっと進化した方法で用を足していると思われますが、これは私のエクスペリエンス(貴重な?体験)です。

私は新小倉発電所でも主に配管工事をしていました。仕事にも慣れ、配管の一部は主任として任せられるようになりました。工事は工程内に進むように段取りすることが大切です。私は早めの出勤を心掛け、作業開始前に自分が担当する現場の確認をし、いつも一日の作業が工程通りに進むように段取りを考えていました。

工程通り完了すると、上司が「よくやった」と褒めてくれます。取り組む仕事の内容も、だんだんと配管のサイズが大きくなったり、重要度の高い仕事を任せてくれるようになりました。

発電所の建設で「メインイベント」と言われる工事がありました。「ストレージタンク」の設置工事です。ボイラー周辺の骨格ができたころ、十一階の屋上に「ストレージタンク」という蒸気を貯蔵する大きなタンクを引き上げ、設置するのです。

こうした重量物の搬送作業は鳶職の人たちが主に行います。まだ鉄骨が露出した状態で障害物が少ないときに、大型ウインチを設置し吊り上げます。準備段階で五階付近に少し出っ張った鉄骨がありました。これを避けて吊り上げなければなりません。

補助のウインチを使って、途中でタンクを手前に引き寄せ、障害物を避けながら吊り上げようということになりました。「誰か補助ウインチを使う者はいないか」と鳶のボーシン(現場責任者)が声をかけました。

他の鳶の人たちは、それぞれの位置に配置されています。私はとっさに「私がやります」と声を出しました。「仲宗根、お前やれるのか?」とボーシンが言いました。私は「はい、自信があります」と、とっさに言っていました。「そうか、自信があるか。それならお前がやってみろ」とボーシン。

それまで何度かウインチを操作して、資材を吊り上げたことがありました。

いよいよ「ストレージタンク」の吊り上げです。九州電力の上層部の人たち、工事関係者や来賓が赤い胸章を着けて見守っています。私は五階に設置されたウインチを操作します。メインのウインチがグングンと唸りをあげて吊り上げていきます。