人目もあるのでなるべく早く診察してあげています。できるだけ早く専門医に診せ、ADHDを見つけて治してあげれば、このように症状が進行することを防げます。

「もしも子どもが発達障がいとわかったら傷つくのではないか」と感じ、診断を躊躇(ちゆうちよ)している方もいらっしゃいますが、思春期に入り自我に目覚めている彼らは、自分と他人の違いを敏感に察しており、その違いの原因がわからず悩んでいることが多く見受けられるのです。

放っておくと、思い悩んで自分で自分の自尊心を傷つけてしまい、「死にたい」と涙ながらに親御さんに訴えるなど、うつ的な状態に陥ってしまう危険性もあります。自閉スペクトラム症とADHDは密接につながっており、それぞれの濃さの違いで症状の出方が異なります。

さらにその上に虹がかかったようにさまざまな二次障がいが併存しています。発達性協調運動症(DCD)、反抗挑発症(ODD)、素行症(CD)、限局性学習症(SLD)、知的発達症(IDD)、不安障害、そして、うつです。これらが複雑にからみあって、個々の発達障がいを形成しているのです。

E君の場合も、「E君も忘れたりする自分の不注意なところを治したいかな?」と尋ねると「はい」ときちんと答えました。そして、錠剤の薬を飲むことをお願いして、診断は終わりました。その表情は、自分のことがわかったためかどこか晴れ晴れしているようにも見えました。

自尊心を低下させないために必要なことは、よく褒めることです。他のお子さんがやっていることを少しでもできたら、例えば、椅子に長い時間座っていられたら、それだけでも褒めてあげてください。

診断を終えてドアを閉める間際に、私はわざと大きな声で本人に聞こえるように、いつも「いい子だな」と呟(つぶや)きます。お子さんはこの私の最後の言葉を聞いています。

とにかく、褒めることが必要です。褒められて嫌なお子さんはいません。こうひと言付け加えることで必ず次の外来にもやってくるのです。

褒められることで、「自分にもできることはある」「もっとやってみよう」などの前向きな感情が生まれ、自尊心は自然と高まっていきます。みんなYDK(やればできる子)なのです。

もちろん中学生までに周りがADHDに気づき、早めに手を差し伸べてあげることが望ましいのですが、なかなか気がつきにくいものです。中学校時代は、目に留まりやすい多動・衝動型のADHDよりも、忘れ物が多い、予定通りに物事を遂行できないといった今まで目立たなかった不注意型ADHDの症状が見え始める時期として認識し、注意して見るようにしてください。見つけられなくても手遅れということはありませんが、中学校の時点でADHDを見つけてあげれば、さまざまな治療を施し、高校までに自尊心を高めることができ、自信を持って、進学や就職へ臨むことができるでしょう。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。