不倫は夫婦の潤滑油だと聞いたことがある。外で楽しんでいる分、家では配偶者に優しくできる。家庭生活に疲れた時でも、外に安らげる場があればリフレッシュしてまた笑顔で家に帰れる。しかし、平然と今まで通り旦那とは接しつつ、外にときめきを求める。そんな器用なことは私にはできなかった。

私は旦那と不倫相手の両方を同時に愛することなんてできなかったし、両方と肉体を交えることもできなかった。

ショウ君を愛してしまった今、気持ちが零になってしまった旦那とは、たかがセックスすらすることができないのだった。

怖かった、と私は素直に答えた。セックスを拒否することが直接不倫に繋がるわけではない。いくら口で取り繕ったとしても、肝心の行為ができないのなら意味がない気がした。

「怖かったって? 僕に抱きつかれて、怖かったって?」
旦那が聞き返したが、私は何も答えなかった。

おかしい、と彼は続けた。
「ずっと思ってたことだけど、どうしてセックスしなくなったの? 最近、全然してないじゃない」

旦那の言い草に嫌気がさした。セックスをしなくなったのは、私がセックスに応じなくなったからではない。

確かに私は旦那を避けていた。なるべく同じ空間にいないようにはしていた。一緒にいても以前のように自分から手を握ったり抱きついたり、甘えた態度は取らなくなった。

しかし旦那が本気でセックスをしようと思えばいつでもチャンスはあった筈だ。何しろ同じ家に住んでいるのだから。そうしなかったのは自分であるのに、セックスがないことをまるで私だけの責任のように彼は問い詰めるのだった。

「別にセックスなんてしたくないくせに」

今まで幾度となく私は恥をかかされてきた。セックスがしたい。そう思って自分から旦那の股間を弄(まさぐ)り舌を絡め腰をくねらせて抱きついても、応じて貰えないことは多々あった。私があまりにも不機嫌になった日にだけ、渋々彼は私を抱くのだった。

そんな煮え湯を散々飲まされてきた挙句、今更セックスがなくなったことをとやかく言われる筋合いはない。こちらがしたい時はできなかったのに、いざ全くセックスがなくなれば文句を垂れるとは自分勝手にも程がある。